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幻想
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ラビィの言葉に、私は言葉を失った。
何故ラビィは昨晩陛下が私の寝室へ訪れたことを知っているのだろうか。
いや、それよりも、だ。
流石に成人して幾年か経過している私だ。ラビィが尋ねている真の意図を察するには容易い。ラビィが今尋ねていることはつまり、昨晩私と陛下が関係を持ったかどうかということだ。
女性の口からまさかそんなことを聞かれるとは、全く微塵も思っていなかった私にとって、このラビィの問いは暫く思考を停止させるのに十分なまでに衝撃的だった。

「………なんで、陛下が尋ねてきたことを知っているんだい?」

「後宮において、陛下の動向は常に注目されています。陛下が後宮に入った瞬間から、皆陛下がどの妾后様の下を訪れるか監視しているのです。今朝は……ラウル様の話で後宮が持ち切りで御座います」

最後の言葉はラビィにしても言い難そうだった。
私はラビィの言わんとしていることが正確に把握できた。
つまり後宮内で、私は陛下の寵愛を受けたという噂が流れているということか。しかし、それは全くの事実無根の言い掛かりに過ぎない。

「確かに、昨夜陛下は私の寝室へいらっしゃった。しかし少し話されて、直ぐに帰られた。それも皆周知のことなのだろう?」

本当に陛下の動向を注視されているのなら、昨晩、早々に陛下が私の部屋から出て行ったことも分かる筈だ。それなのに、何故そのような噂が立っているのか、甚だ不思議なことだ。

「……陛下はこれまで、妾后様の下で一夜を明かされたことは御座いません」

「……なんだって?」

つまり、その日のうちに部屋を後にしたからといって、それで関係を持っていないという証明にはならない、ということか。いや、しかし昨夜は本当に何もなかったのだ。

「ラウル様」

一体なんで、こんな誤解が……。待て、今ラビィは後宮中にこの噂が蔓延っていると言っていたな。ということは、だ。勿論エーリオにもこの噂が届いている訳で……。早く、誤解を解かねばならないっ!

「ラウル様、落ち着いて聞いて下さい」

「!?」

ラビィにしては大きな声を上げて、私の思案を中断させた。
驚いて、ラビィに注目すると、ラビィの顔には緊張の色が浮かんでいた。

「恐らく、ラウル様が何を言おうと、他の妾后様は信じないでしょう。真実、陛下が昨晩ラウル様に寵愛をお与えにならなかったと言っても、そんなこと他の妾后様には関係ありません」

「そんな、何故」

「妾后様にとって、陛下に部屋を訪れられた、それだけで嫉妬、憎悪の対象となるのです」

「そんな馬鹿な……私は男で陛下と何かなる筈が…」

「エーリオ様をお忘れですか?失礼ながら、エーリオ様も男性であらせられますが、陛下の寵愛を頂いておりました。性別など、関係ないのです。いえ、寧ろ、男性だからこそ……」

ラビィの言葉に愕然とした。
確かにエーリオは男とは思えないほど可憐で可愛らしい。それに陛下のことを愛していて、陛下から寵愛を与えられていた。
しかし、私は違う。陛下から与えられたものと言っては冷たい言葉だけであるし、薹が立ち過ぎている。陛下が相手をする筈がないと分かるだろうに。
女性の嫉妬とはこうも見境なく向けられるものなのか。





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あきゅろす。
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