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幻想
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「…………ラビィ、君に聞いて欲しいことがある」

ラビィに謝らなければならない。
しかし、それはただ謝罪の言葉を述べれば良いという訳ではない。

昨日、私はラビィを傷付けてしまった。ラビィに嘘を吐いて部屋を後にしてしまった。別にラビィを信用していなかった訳ではなかった。ただカトル様の御身のため、私の判断で嘘を吐いた。
だが、もし本当にラビィを信頼しているというなら、それは告げるべきだった。
ラビィが他の人間にそう易々と告げ口するような人間ではないと分かっていた。だとういのに、私は………ラビィを傷付けてしまった。

「昨日、私は君にエーリオの所に行ってくると言った。しかし、それは嘘だ、嘘だった。すまない。私は君に嘘を吐いてしまった」

「ラウル様……」

突然語り出した私を、ラビィはただただ驚いた顔で見ている。ラビィの人間らしい表情を
とても久し振りに見たような錯覚を覚える。

「本当はあの時、私はカトル様とともにベレニーチェ様の下へ向かおうとしていた」

「……カトル様…」

「カトル様が後宮に侵入していることが知られてはいけないと、君に嘘を吐いてしまった。本当にすまなかった……。君のことを信頼しているのだから、正直に告げれば良かったと今になって後悔した」

カトル様だってきっと許してくれただろう。私が信頼を置いている者なのだから。

一通り私が語り終わると、場に沈黙が流れた。私はじっとラビィの反応を窺う。ラビィは何かを考え込むように、口を綴んで伏せ目がちにずっと在らぬ方向を見ていた。

陽の明りを部屋に入れようと開かれた窓から、爽やかな風が舞い込む。柔らかな風は私の頬を撫で、部屋中へ広がっていく、部屋は健やかな気に包まれた。昨日までの鬱々とした雰囲気とは雲泥の差がある。
そのことに、漸く私は自分が許されたことに気付かされた。

「………そう、だったんですか。……申し訳御座いません。ラウル様にこのようなことを言わせてしまって」

心底申し訳なさそうに告げるラビィに、再び罪悪感が湧き起こる。ラビィに謝ってもらう道理など、私には一抹もないのだ。

「………カトル様は、お元気でしたか…?」

「健やかに成長なさっていると思う。ただ、陛下とのことをずっと憂いてらっしゃった」

ラビィがカトル様のことを尋ねたことが意外だった。もしかして、知り合いだったのか?それがあってカトル様はラビィがいる時は姿を現さなかったのか……?

「そうですか……」

私の返答に、そう言って憂いを顔に浮かべるラビィ。それに、ラビィとカトル様の間に何らかの関係があることを私は確信した。しかし、自分から尋ねることはしない。私がラビィを信頼して本当のことを打ち明けたように、ラビィが私を信頼して打ち明けてくるのをじっと待つことにする。

ラビィにはラビィの、私には思いもしないような事情があるに違いない。

それを私の口から穿り出すのは違う。

「………ところで、ラウル様」

「何だ?」

先程の憂慮していた表情から一転、厳しい顔付きになったラビィは、硬い声で私に尋ねてきた。

「昨晩、陛下がいらっしゃられたと思いますが、何かありましたか」






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