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幻想
39






「……ああ、主はエーリオの友だったのだな。それならば主からエーリオに告げておけ。私に気持ちは無い、と」

これがエーリオにとっても、私にとっても最後通牒だった。
ヨルダン様の心は既に決まっているのだ。その決定に、エーリオとの未来は無い。

「陛下……!!それはあまりにも非情であります!」

「王が、いちいち妾后の気持ちを汲んで行動せねばならぬと言うのか」

ヨルダン様の指摘に、言葉が詰まる。
妾后は王の従者。従者に王が伺いを立てることはない。
ヨルダン様の言っていることは、正論だった。

しかし、ここで立ち止まる訳にはいかなかった。

「それは………。しかし、妾后だって人間です!気持ちが、心が、あるのです!それに王だとか妾后だとか、下女だとか、身分は関係ありません!!酷い言葉を言われたら、酷い行動をされたら誰でも傷付くのです!!!」

そう、心があるのだ。
だから心無いことを言われたら、傷付く。
エーリオだって、ラビィだって、同じように傷付く。

ヨルダン様も、きっとそれは同じ筈だ。
酷いことをされたら、酷いことを言われたら傷付かれる筈だ。
そんな当然のことを、ヨルダン様が分からない筈がない。

「…………興が削がれた」

どのくらい時が流れただろう。
私の心の叫びを代弁した言葉を最後に、沈黙が流れた。
ヨルダン様も、私も何も言わずにただ見詰め合っていた。

そんな沈黙を破いたのは、ヨルダン様だった。
そしてその後、直ぐに私の部屋を出て行かれた。

窓から見える月は、もう傾き始めていた。






憂鬱な気持ちで朝を迎えた。
あの後ずっと、寝ずにヨルダン様のことを考えていた。
どうしてヨルダン様はあのようなことをおっしゃられたのだろうか。
エーリオのことを愛していた訳ではなかったのだろうか。
考えても考えても、明確な答えが返ってくることはなかった。

「………おはよう」

「…おはよう御座います、ラウル様」

寝室から現れた私の姿を見て、ラビィの顔に一瞬驚きの色が浮かぶ。
それもそうだろう。一睡もしていないのだから、寝不足で顔色は悪く、目の下には隈もできている。そんな姿を見て驚くなという方が酷だろう。

朝の挨拶を済ませ、朝食の席に座る私をちらちらと気にしているラビィの気配を感じる。いつもなら何か声を掛けてきても良い筈なのに、何故だろうと考えていると、昨日の出来事を思い出した。
そうだ、昨日ラビィを傷付けてしまったのだ。そのせいで今まで地道に構築していた関係性も全て無に返ってしまったのだ。

あんな酷いことをしてしまった私のことを、気にしてくれるラビィに心が癒される。
嬉しいだなんて、思ってはいけないのに、喜びが溢れてくる。
しかしその喜びを享受する権利は私にはない。






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