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幻想
33






私が下女を警戒して制止していたせいで、完全に離れ離れになってしまったようだ。
カトル様が今の話を聞いていなくて良かったと言うべきか、離れてしまって失敗したと思うべきか……。
このままこの道を私が一人で進むのは危険だろう。カトル様と合流できれば一番良いが、それも望み薄だ。こうなったら、来た道を引き返すのが得策だろう。カトル様が私と離れたことに気付いて引き返してくれるのを待つのも一つの手だが、それまでの間に誰かに見付かってしまったときのリスクを考えると、それもできない。

仕方なく、今来た道を一人戻ることにした。






「………しまった」

完全に迷ってしまった。
来た道をただ引き返すだけなのだから、迷うこともないだろうと思っていたが甘かった。
視界の悪い叢の中では、目印になるようなものはなく、どこを進んでも同じ光景に見える。曖昧な記憶を頼りにして帰るには、至難の業だった。こんなことならば黙ってカトル様を待っていた方が早かったかもしれない。
気が付けば日も傾き始め、辺りは一層暗くなってきた。無事部屋に戻れるのかという心配も出てきた。自分のとった軽率な行動を恨みたくなる。このまま一日戻らなければラビィが心配するだろう。エーリオの下へ行くと書いて置いてきたから、エーリオを尋ねるだろう。ラビィだけではなくエーリオを巻き込んでしまうことになる。

「何としても、自力で戻らなければな……」

二人のことを考えると、どうにかするしかない。
折れそうになった心を再び奮い立たせ、宛てもなく叢の中を進むことにした。

「…………あ……」

そうして暫く進んでいると、またもや誰かの声が聞こえた。今度は先程よりも遠い。ゆっくりとならば突っ切ってしまうことも可能だが、ここは慎重に一時制止する。

「………やぁ……んな場所でぇ……」

相手とは5メートル以上は離れているだろう。この距離ならこちらを向いてなければ、突っ切っても気が付かれないだろう。叢の中から相手の様子を窺って、機会があれば立ち去ってしまおう。いざ、と叢を掻き分け小さな窓を作ろうとしたとき、耳にはっきりと自分の知る声が聞こえてきた。

「エーリオ……身体はそうは言っておらぬぞ…」

この声は……まさか………。
逸る気持ちを抑えつつ、恐る恐る叢から覗き見る。すると、そこには私がよく知る二人の人物がいた。

「へい、かぁ……イジワル……仰ら、ないでぇ……」

ヨルダン様に、エーリオ……?
どうやらここはエーリオの部屋の中庭のようだ。知らず知らずのうちにこんな所に出てしまったらしい。

夕日が辺りを照らしていて、二人の姿を一層はっきりとしたものにさせる。
庭先に伸びたベランダの上。こちらを背にして柵に身体を預けているエーリオ。そのエーリオの身体に重ね合わせて立っていらっしゃるのがヨルダン様。遠目からでも、二人が何をしているのかはっきりと分かる構図だった。

「意地悪……?心外だ。こんなにも、そなたを愛でておると言うのに……」

「ひゃ、あぁん……!陛下あぁ……!」

嬌声が一段と大きくなり、エーリオの腕がヨルダン様の背中へ伸びる。
とんでもない光景に、私の頭は真っ白になった。




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あきゅろす。
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