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幻想
29





「じゃあこれだけは聞かせてくれないか……?」

「……はい、何でしょうか…?」

私の要望に応えられなく、申し訳なさそうにしているラビィに私は一つの問いを投げ掛けた。

「アルベルト殿とは知り合いなのか?」

それは以前からずっと気になっていたことだ。しかし男女の仲を聞くのは野暮だろうとずっと聞かずにおいたことだった。今ここでラビィにこの質問をしたのは、一重にアルベルト殿のラビィに対する態度が決して色恋などといった浮ついた感情ではないことが察せられたからだった。どちらかと言うと、私のエーリオに対する感情と似たようなものを感じる。

「……はい。遠い昔から、ずっとお世話になってきました…」

「そうか……。答えてくれてありがとう」

やはり二人は知り合いだったのだ。しかも旧知の仲のようだ。
1つ疑問を解消した私は、その疑問を晴らしてくれたラビィに最大限の感謝の意を示す。そんな私にラビィは戸惑うばかりだったが、そんないつものラビィの様子に、漸く安心することができた。

そんなことがあった次の日。
私は後宮で意外な人と会うことになる。







「アルベルト殿!」

昼食を済ませ、庭先で鍛錬に励んでいると突然そこにアルベルト殿が参られた。アルベルト殿の手にはたくさんの書物が抱えられており、仕事の途中であることが窺えた。

「すみません、ラウル殿お邪魔してしまったようで……」

そう言って私に対し謝罪をすると、何かを言いたそうにこちらをじっと見てこられた。
不思議に思い、どうしたのだろうかと考えを巡らすとふとその理由に思い当たった。

「今ラビィはいませんよ?洗濯場に行っている筈です」

毎日この時間にラビィはシーツなどの洗い物を持って、後宮にある洗濯場に洗い物を出しに行っている。アルベルト殿はきっとラビィに会いに来られたのだろう。しかしそのラビィがいなくて困惑されているに違いない。そう思っていたのだが、本当のところアルベルト殿は私に用があったらしい。

「それは分かっております。私が用があるのはラウル様です」

「私に……?」

思ってもみなかった展開に目が点になる。
一体アルベルト殿が私に何の用なのだろうか。用件を尋ねてみるとアルベルト殿は辺りを見渡し、何かがいないことを確認してから私に尋ねられた。

「昨日、あれから彼女の様子はどうでしたか……?」

「彼女……?ああ、ラビィのことですね」

人目を阻んで尋ねられてきたから、一体どんなことだろうと身構えてしまったがその必要はなかったようだ。アルベルト殿もラビィのことが気になるのだろう。

「いつも通りですよ?」

平常通り、形式ばった礼儀正しい対応で、一歩線を引かれている。
まあこれはアルベルト殿には関係ないだろうが。






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