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幻想
28





中央広場へ向かう途中、エーリオの部屋へ向かい、エーリオを回収してから中央広場へ向かった。今のエーリオでは1人で中央広場へ向かうのも難しいだろう。
私たちが中央広場へ着いた頃にはほとんどの妾后が到着していて、現れたエーリオの姿を見るなり、その顔を厳しくさせた。そんな妾后たちの様子に、エーリオは余計に委縮してしまっている。私の後ろを歩かせ、なるべくエーリオから彼女たちの視線を浴びなくて済むようにする。しかし結局は並列をしなければならないので、エーリオは忽ち彼女たちの激しい嫉妬を孕んだ視線に晒されることになる。時間の経過に伴って、エーリオの顔色がどんどん悪くなっていく。心配だが今はまだどうすることも私にはできない。私には、一秒でも早くヨルダン様がいらっしゃって下さるのを願うしかできない。

ヨルダン様がいらしたのはそれから四半刻が経過した頃だった。

ヨルダン様はいつもと変わらず、エーリオを含む数人に声を掛けられた後、長椅子に腰掛けられた。前は若い妾后がそのお傍に仕えていたが、今はその寵愛を一身に受けるエーリオしかその場に上がることは許されない。エーリオがヨルダン様の面前へ向かうのを目の前で見せ付けられることとなった妾后たちは皆一様に嫉妬の炎を燃え滾らせていた。

「どうした、エーリオ。顔色が悪いぞ」

「いえ……少し日に当たり過ぎたようです」

「そうか。最近うんと日差しが強くなってきたからな。……あまり無理はするな」

仲睦まじそうな二人の姿に、妾后は方々悔し涙を飲みながらこの場を後にしていく。私はそんな彼女たちを尻目に、エーリオの幸せそうな顔を確認しその場を後にした。

部屋に戻ると、驚くことにラビィが私の帰りを待っていた。
先程休むように言った筈なのに、平常通り私の部屋の掃除をしていたようだ。

「ラビィ……大丈夫なのか?」

見ると幾分かは顔色も戻ってきてはいる。しかし万全という訳ではない。
私の目からはやはり休息を必要としているように窺えた。

「心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんラウル様」

「いや、それは良いのだが……」

気丈に振る舞っているが、無理をしているようにしか見えない。

「アルベルト殿もおっしゃっていたことだし、休んではどうだ?」

宰相直々にお許しが出ているのだ。無理に働くことはないだろう。

「いいえ、大丈夫です。……それに、身体を動かしていた方が楽なので…」

睫毛が伏せられて顔に影ができる。その言葉に込められた意味の正確なところを私は知らない。それはきっと、あの時妾后が言おうとしていたことに関係することに違いない。

「ラビィ、君は一体……」

何者なんだ?それが正しい問い掛けなのか私には判断付かない。
しかし、確かに一国の宰相に愛称で呼ばれ、他の妾后からも認識されている。大抵の侍女はそんなことない筈だ。
それに私はラビィが以前何をしていたか全く知らない。私と出会った時からのラビィしか私は知らないのだ。何処で何をしていたのか、ラビィの口から聞かされたことはない。

「………それは…言えません……」

ラビィの拒絶に私は深く傷付いた。
数か月間ずっと一緒にいて、少しは近付けたと思っていた。しかしそれは私の独りよがりの考えだったようだ。私はまだラビィに信用されていない。

「そうか……分かった」

無理にとは言えない。ラビィにはラビィの事情があるのだろうし、それに私如きが踏み込んで良いことではないのだ。言うか言わないかはラビィの判断するところにあり、私がとやかく言う権利はない。




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