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幻想
27





しかし、流石にエーリオの矜持を傷付けるような言葉をそのまま放っていく訳にはいかない。

「エーリオは関係ありません。私は私の意思でこの場に来ているのです」

エーリオが私にお茶会に参加してくるよう言ってきたことは一度もない。一緒に行こうよとは言われたこともあるが、それは前の話だ。今となっては寧ろ私がお茶会に行くことを憂いてくれている。
決して嫌がる私を無理矢理エーリオが来させている訳ではないのだ。

「まあラウル殿ったら。奇特な方ね」

「そうね。嫌味を言われるって分かってらっしゃるでしょうに」

「侍女も侍女なら、主も主ね」

最後の言葉にビクンと空気が振るえた。
今まで何を言われても直立不動の姿勢を保っていたラビィが、その言葉に反応を示した。珍しいラビィの反応に、私はついラビィに振り返ってしまう。
ラビィは痛みを堪えるよう眉根を寄せ、瞼を臥せっていた。まるで泣きそうな顔をしている。その姿に声を掛けようとするが、ラビィの全身から発せられる拒絶の空気に私は言葉を噤んだ。

「……どういう意味だろうか?」

再び彼女たちへ向き直って、問題の発言をした1人に尋ねた。

「あら、ラウル殿は御存じないの?貴方の侍女は―――」

「皆様、これより陛下が後宮へ参られます」

彼女から言葉が今まさに紡がれようとしていた瞬間。
広場にアルベルト殿がやって来られた。あのお決まりの台詞を口にして、恭しく礼を取られた。そんなアルベルト殿の言葉にこうしてはいられないと妾后たちはこの場を後にしてしまった。そのため、私がその言葉の続きを聞けることはなかった。

広い空間にまたアルベルト殿とラビィと私の三人だけが残された。
一瞬の出来事で。毎度のことながら惚れ惚れしてしまう。

「ラビィ……顔色が悪い。今日の所はもう休んでいなさい」

そんなことを思っていると、アルベルト殿がラビィに対して話し掛けていた。
その光景に思わず押し黙ってしまう。今までアルベルト殿がラビィに声を掛けたことなど無かった。視線を交わすことはあっても、だ。
それにアルベルト殿はラビィと呼んだ。ラビィとは彼女の愛称のことであり、親しい間柄ではないと呼ばす筈がない名だ。やはりアルベルト殿とラビィは知り合いなのだろうか。

「いいえ……大丈夫です。御心配をお掛けして、申し訳ありません」

アルベルト殿に対してのラビィの返答はいつもと何も変わらない。礼儀正しく、どこか一歩引いているような対応だ。

「いいや、ラビィ。私からも頼む。今日はもうゆっくり休んだ方が良いだろう」

真っ白な顔で立っているラビィを見て、私もアルベルト殿の案に賛成した。
流石に二人から言われればラビィも断る訳にはいかないらしく、すごすごとその場を後にしていった。そんなラビィの姿を心配そうにアルベルト殿は見詰めていた。

「………彼女たちにも、困りましたね…」

ぽつりと呟かれたアルベルト殿の言葉がやけに印象的で、頭に残った。

「アルベルト殿……」

「……ラウル様。そろそろ急がれた方が良いのでは?」

私の言葉を遮るようにアルベルト殿は義務的な物言いをなされた。触れて欲しくないような反応だ。そんなアルベルト殿に対し、追求することなど私にはできなく、ただ言われたように中央広場へ急ぐしかなかった―――。





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あきゅろす。
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