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幻想
26





「それに君は何も悪いことはしていない。そう自分を責めるな」

お茶会の一幕もそうだ。
エーリオは別に悪いことをしている訳ではない。ただ想い人と一緒にいるだけだ。彼女らが勝手に嫉妬をして、一方的に酷い言葉の数々を投げかけてきたのだ。

「ラウル……ありがとう……」

私の言葉に、またもやエーリオの瞳に涙が浮かぶ。
感極まっての涙だろうが、エーリオには涙より笑顔が似合う。泣いている顔など見たくはない。

「ラウルだけは、僕の味方でいてね……」

そう言って、私の腕をそっと握ってくるエーリオ。
小さくて、か弱くて。守ってあげなければならないまるで弟のような存在。
彼女たちに一方的に糾弾され、尊厳を傷付けられたエーリオ。
後宮では、エーリオの真の味方になってやれるのは同じ男である私しかいない。
私が守ってやらないとならない。

「エーリオ。君のことは絶対私が守ろう。――君を傷付ける全てのものから」

だから心配するな。泣かないでくれ。







それからエーリオがお茶会へ行くことはなかった。
それもその筈だ。あんな言葉を浴びせられて、良い思いはしないだろう。
始終部屋に籠りっきりで、私の来訪を喜んでくれた。

一方の私はと言うと、エーリオがお茶会に顔を出さなくなっても、2回に1度のペースで顔を出すようにしている。アナスタシア様の手前、私まで顔を出さなくなってしまうとあそこまでしてくれたアナスタシア様に申し訳が立たない。アナスタシア様の顔を立てるという意から、私1人でも行くようにしている。
しかし、やはりと言うか妾后たちからの風当たりは強い。この前は比較的若い妾后たちから責め立てられたが、古参の妾后からも良い印象は持たれていない。ヨルダン様を男の妾后が独占していることが心底気に入らないようだ。以前は古参の妾后対若い妾后といった図になっていたのが、今では女性対私たちとなってしまっている。前にラビィが言っていたことが当たらずと雖も遠からずになってしまった。

彼女たちの中では私はエーリオの味方と認識しているようで、私の姿を見ると決まって嫌味を言ってくるようになった。以前の親しげに話し掛けてきた彼女たちからは到底想像も付かない豹変振りだ。背後に控えているラビィの顔も暗い。

「あら、またエーリオ殿はご欠席かしら?」

「陛下の相手で腰が砕けていらっしゃるのかも」

「でもまあ、ラウル殿を1人で来させるなんて意地の悪い方ね」

アナスタシア様のお目に付かぬよう、嘲笑も密やかに行われる。私にしか聞こえないような声で、且つ単発的に行われた。あまりに長々と話していれば、アナスタシア様の目に留まってしまう恐れがあるからだろう。

彼女たちの蔑みは回を重ねる毎に、下品で直接的なものになっていた。王の妾后たるものが、このような言葉を口にするなんてと何度思ったことか。以前の面影も全くない醜い女性しかそこにはいなかった。
いつも私はそんな彼女たちの言葉を一方的に聞いているだけだった。彼女たちにとって、私に鬱憤をぶつけることは良いストレスの発散になっているようだ。私が黙って彼女たちの言葉を聞いていれば、その矛先が直接エーリオに向かうことはないだろう。エーリオの為にも何を言われても耐えなくてはならない。それにアナスタシア様の手前もある。ここでまた騒動を起こす訳にはいかない。また、男の自分が女性である彼女たちに対し怒ることもできない。





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