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幻想
24





「無理されない方がいいわよ」

「そうね、身体が一番ですもの。1人で陛下のお相手をされなくても、私たちに回して下されば良いのよ」

「そうそう、独占するなんてダメよ」

次から次へと紡がれる彼女たちの言葉。その全てが私を混乱させた。
先程まではエーリオの身体を心配していた言葉が、今となってはエーリオを皆で糾弾するものに代わっている。いや、それ以上に驚くことは、その内容。

「エーリオ………」

まさか、君は……。無邪気に笑いかけるエーリオの姿が脳裏に浮かぶ。その姿は、人生の辛さなど何も知らない無垢な子どものままで。
その幻影の陰に、目の前にいるエーリオが現れる。
その姿は私が思っていた姿と全く変わっていなく、目には涙を浮かべ悲しそうな顔で私を見詰めてくる。そんなエーリオの姿に、私はハッとさせられた。

「皆さん、何か勘違いをされているのではないでしょうか。陛下がエーリオの下を訪れているのは、ただエーリオのことが心配だったからで他意はありません」

ヨルダン様はその優しさを持ってして、ずっと塞ぎ込んでいたエーリオの相手をしていただけなのだ。そう、決して妾后が思っているようなことではないのだ。
ヨルダン様に想いを告げるのも恐れ多いと言っていたエーリオ。そんなエーリオを私が信じなくて、誰が信じてやれる。誰が守ってやれるというのだ。他の妾后の言葉に惑わされてはならない。

「まあラウル殿!エーリオ殿を庇われる気ですか」

「貴方は何も知らな過ぎるのですわ」

「そう、私たちの言っていることが決して間違いではないと、その隣で小さくなっている坊やに聞いてみたら宜しくよ」

敵対心を露わに応戦してくる彼女たちに、ついたじろいてしまう。それもその筈。何せ相手は数人で此方は1人なのだ。彼女たちの剣幕に尻込みしてしまっても仕方ないだろう。

「エーリオ、君からも何か言ってくれないか」

彼女たちの間違った考えを是正するためにはそれしかないと思った。
だから私はエーリオの助けを得るため、隣に座るエーリオに向き直った。

「ラウル………」

眉根を寄せて私をじっと見詰めてくるエーリオ。とても哀れで、早く彼女たちの誤解を解いてやらねばと私は使命感に追われた。しかし、次の瞬間彼が溢した言葉に、その使命感は粉々に打ち砕かれてしまった。

「違うの、ラウル……ゴメンね。皆の言っていること、間違ってないんだよ………」

そう言ってエーリオは顔を手で覆い隠してしまった。揺れる肩や時折聞こえてくる嗚咽からエーリオが泣いていることが分かった。

「エーリオ……君は……」

ただただ純粋に驚いていた。
ヨルダン様がエーリオと……?男であるエーリオに寵愛を授けたというのか?
まさか、そんな………。

「分かりまして、ラウル殿?」

「この坊やったら可愛い顔して、裏ではコソコソと私たちの陛下から情けを掛けてもらっていたのよ」

「男のくせに、本当嫌らしい子」

私は、エーリオに裏切られたのか……?





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