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幻想
20





エーリオは大丈夫だろうか。医者にちゃんと診てもらっただろうか。
そればかりに気を取られる毎日が続いた。

エーリオの病を気遣い、訪問を辞するようになって一週間程が経った頃。
エーリオの具合がどうなったか気になり、居ても立ってもいられなくなった私は久し振りにエーリオの下を訪れた。

「エーリオ、具合はどうなんだ?」

「ラウル……!久し振り!」

久し振りに会ったエーリオは、少し痩せたようだったが至って平常通りだった。先日の、最後に会ったときに見せた憂いを帯びた様子は微塵もなく、元気な姿を私に見せてくれた。病が治ったのだろうと、その姿を見て私は胸を撫でおろした。

「病はもう良いようだな」

「え?ああ、大丈夫だよ」

様子を見たら負担にならないよう直ぐ帰ろうと思っていたが、この様子だとそう気を揉む必要もなさそうだ。エーリオの希望もあり、腰を落ち着かせて話をすることにした。
話の種は専ら、エーリオの病についてだった。あれだけ調子を悪そうにしていたのだ。もしかしたら重大疾患があったのかもしれない。今は調子が良さそうだが、一過性のものかもしれない。一体どんな病だったのか、気になったのだ。

「ちゃんと医者には診てもらったか」

「ううん、診てはもらってない」

「何だって?」

「だってお医者さまに診てもらっても、意味ないし……」

どうしてだと理由を尋ねると、だって……という前置きとともに予想外の言葉がエーリオの口から放たれた。

「お医者さまにも治せない不治の病だったから」

「………は?」

思わず声が出てしまった。
不治の病だと……?
それは、つまり、何だ。恋の病、ということか?
しかし、待て。一体誰に、だ?

確かにここには数多くの女性が働いているし、見目麗しい妾后方が住まわれている。エーリオくらいの年頃の少年であれば、そんな女性たちを見て好意を抱くようになるのも不思議ではない。しかしだからといって、意中の相手が妾后方であれば大きな問題となってしまう。後宮にいる妾后は皆一様に陛下―――ヨルダン様の所有物であり、そんな彼女たちに想いを寄せることは重大な罪過となってしまう。例えエーリオが上級貴族出身とは言え、その罪は免れないだろう。エーリオの想い人が他の女性であれば良いのだが……。

「まさかあの方があんなに格好良くて素敵な方だったとは思わなかったな……。幼い時に数度会ってる筈なんだけど、全然覚えてなかったや」

目をうっとりとさせて、意中の相手のことを語るエーリオ。
エーリオの口振りから察するに、その相手とは女性にしては珍しいタイプの人間のようだ。美しさを称えるよりも、その格好良さを称えるということは妾后方ではなさそうだ。後宮で働く下女の誰かだろう。いや、でもエーリオが幼少の頃に会ったことがあるということは後宮で働く女性では有り得ないか……。しかし絶対とは言い切れないだろうし……。

「で、一体誰なんだ。その想い人は?」

あれこれ1人で考え込んでも仕方が無い。私は思い切ってエーリオに尋ねることにした。この行為に、私は自身の予想の斜め上を行く解答を受け取ることになる。






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あきゅろす。
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