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幻想
11





「ラウル様が男性であるからこそ、中傷の標的にされるのではないかと恐れております」

ラビィの言っていることが、全く理解できなかった。
男であるからこそ、中傷の矛先に立たされるとは信じられない。
王の情愛を授かることもなければ、孕むこともない。権力争いから最も懸け離れた存在であるのに、一体何故ラビィがそう思うのか。私には理解できなかった。
そんな私の考えを、ラビィは打ち砕いた。

「以前お話させて頂いた通り、ここには現在二つの勢力があります。一つがアナスタシア様率いる他国から嫁がれた現上位妾后様方、もう一つが徐々に台頭しつつある国内の上級貴族の血筋の妾后様方。これまでは、二つの勢力同士が粗のさぐり合い、なすり合いを繰り広げておりました。しかしそこにラウル様のような男の妾后が入れば、二つの勢力は同時に、同じ異端分子を持つことになります。権力争いに関係のないラウル様は、二つの勢力にとっては身内になり得ない異端分子にしか過ぎません。そんな存在に対し、彼女らがどう接してくるか。同じ異端分子を持った彼女らが、もしかしたら呉越同舟にラウル様一人を攻撃してくるかもしれません」

長い言葉の間、ラビィは一度たりとも私から視線を反らさなかった。
本気でそう考え、本当で私を心配してくれているのだ。
権力争いに関係ない私が、お茶会に出席する意味など確かに無いのかもしれない。しかしわざわざ私の為にと開いてくれるお茶会に、私が欠席するなんていう不義理を私はすることなんてできない。ましてやそれが女性からの誘いであれば尚更である。男として女性に恥をかかせる訳にはいかない。

ラビィの心配は杞憂かもしれない。
杞憂でなかったとしても、私は男子である。そんなこと、耐えられなくては情けない。もし仮にラビィの言った通りであったとしても、甘んじてその攻撃を受ければ良い。
そして、その先のお茶会には理由を付けて欠席すれば良い。
そんな自分の考えと、また心配に対する感謝の意をラビィに告げると、ラビィは表情を曇らせたまま小さく頷いた。そんなラビィの様子に心を痛ませながらも、私は自分の意志を変えることはなかった。

翌日。
鍛錬を早めに切り上げ、汗を流し、お茶会が開かれるアナスタシア様の庭内にある温室へとラビィを伴いやってきた。温室には四季折々の花々や、また見たこともないような面妖な花々が見頃に咲き乱れていた。花々のアーチを抜け、温室の中央へ出ると、そこは吹き抜けになっていて、広場があった。広場には数段の段差があり、その段差を登ると、円蓋の日除けがある。その下には大きなテーブルがあり、華やかな婦人たちが椅子に腰を下ろしている。どうやらそこが、お茶会の舞台のようだ。

「ラウル様、ですね?」

私が姿を現すと、給仕の者に指示を出している女性が声を掛けてきた。
容姿の整っている女性で、本日いらっしゃる妾后の内の誰かと思ったが、身に纏う衣装がラビィと同じ物であり、誰かの側仕えの者と気付いた。ラビィと良い、彼女といい、流石後宮で働く女性だと思うべきなのか、顔で採用しているようにしか思えない。彼女の問いに短く肯定で返すと、彼女は然も有りなんとばかりに頷いて、私をテーブルへと案内する。

「お待ちしておりました、ラウル殿。初めまして、私がアナスタシアで御座います。本日は私が開くお茶会に出席して下さって、嬉しいわ」

案内されたのは、テーブルの上座に座する婦人の許だった。記憶にあるままにお美しいアナスタシア様本人である。王の御前にいるのとはまた別の、威圧感を感じる。それ程までにアナスタシア様は神々しい美しさを持ち備えた方だった。

「本日は御招き頂き、光栄です。お初にお目にかかります、ラウルと申します」

そう言えば、ヨルダン様に謁見した際には、アナスタシア様はいらっしゃられなかった。アナスタシア様にすれば、私と会うのはこれが初めてとなる。今思えばあの場にはアナスタシア様を始めとする上位妾后方はいなかったような気がする。これほどまでに美貌と品位を兼ね備えた女性がいたならば、直ぐ気付いただろう。きっとあの場にいたのはラビィの言っていた国内の上級貴族の娘たちなのだろう。確かに見目は麗しかったが、どこか品に欠ける振舞いだった。

そんなことをつらつらと考えながらアナスタシア様に一礼をした後、私は用意されていた席へと腰を下ろした。私の座る席の背後にはラビィが静かに立っている。ラビィの制止も聞かず、来てしまった私を怒っているのかもしれない。この場に足を踏み入れたときから、全く口を開かない。





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