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幻想
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颯爽と此方に向かって歩いてくる姿に、暫し目を奪われてしまう。
年齢は兄と同じくらいだろうか。正しく文官といった引き締まった真面目そうな顔立ちをしている。背丈は私より大きいかと思えたが、目の前に立たれた瞬間、意外にも私と同じくらいであることが分かった。

「遠路遙々ようこそお出で下さいました。お初にお目に掛かりますラウル様。宰相を務めさせて頂いているアルベルト・ブローティと申します。どうぞアルベルトとお呼び下さい」

(こ、このお方がアルベルト様っ!?)

アルベルト・ブローティ。
この王国の歴代の中で最も若い宰相であるものの、その仕事振りは優秀で様々な政策を王に進言しては見事成功を治めている。確か年齢は28歳で、宰相の任に就任したのが25歳の時だった。

「アルベルト様にお目に掛かれて光栄で御座います」

私は目の前の若き宰相に最高礼をしていた。騎士の時分には雲の上のような存在で、一生涯お目に掛かれることはないと思っていた。まさかお目に掛かれることになろうとは露にも思わなかった。感動に胸を躍らせていると、アルベルト様は困ったように微かに微笑んだ。

「ラウル様、貴方様は王の妾后としてこの王宮に召されるのです。どうか私のことはアルベルトと」

王に仕える后は王以外にその膝を折らない。王に求められれば脚を開くが、本来は王の下の世話をすることもありこの国では后は高貴な存在なのだ。立場としては宰相より上の地位になる。その為、私がした行動はアルベルト様をひどく困惑させることになった。

「も、申し訳御座いません」

思わず失態に頭を下げてしまい、更なる失態を重ねることになってしまった。頭上でアルベルト……殿が苦笑しているのが分かった。

「ゆっくり慣れていって下さればいいでしょう。では早速ですが陛下にお目通りを」

「はい」

着衣を正して、アルベルト殿に着いて王の元へ向かった。
王宮内は、隅々まで掃除が行き届いているのか、空気が澄んでいた。
等間隔で見張りの兵が立っている他、人影はなく静寂に包まれている。
そんな中をアルベルト殿の後を追って、歩く。

「あの……?」

暫く黙ってアルベルト殿に着いていっていたのだが、どうにも王の間のある正殿から離れていっているような気がする。一体何処に向かっているのだろうかとアルベルト殿に問いかけてみた。するとアルベルト殿から返ってきたのは、予想もしなかった言葉だった。

「後宮です。陛下はそこにおられますから」

「後宮に?」

「はい」

思わず聞き返していた。まだ日も高い内から、王は後宮にいるというのだろうか。後宮とは夜も更けた頃に、足を延ばす所だと思っていただけに、疑念が尽きない。しかしアルベルト殿の言い様はどこかこれ以上話を展開させるのを拒むようだった。私は疑問を自分の胸の内にだけに秘めることにした。

正殿から離れた場所に位置する後宮は、先々代の代において大規模の改築が行われ正殿に次ぐ煌びやかさになった。それまでは簡素な造りで、2,3人程の妾后が住まわれていただけだと聞いている。その当時後宮を仕切っていた妾后が強請ったから改築工事が行われたとかなんとか。今では昔の面影が微塵に感じられないほど豪華で、広く大きな建物になっている。

「ラウル・トッティーニ様をお連れしました」

後宮に着くと待機していた侍女が私たちを案内し、綺麗に整えられた中庭へと到着した。太陽の光が燦々と降り注ぐそこはさしずめ神々の庭と言ったところか。






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あきゅろす。
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