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幻想
28






あれから―――神那が仮死状態になってから二人の関係は明らかに変化していった。互いに遠い存在だったのが、確実に近づきつつあった。

「愁莉」

「どうしたんですか、神那様」

洗濯物を物干し棹に掛けている愁莉に、神那は後ろから声を掛けた。

「少し出掛けて来る。神登が来たら待ってるように言っておいてくれ」

「はい、分かりました」

初めて会ったとき肩まであった神那の身長は、現在愁莉の胸元ほどしかない。確実に退化が起きている神那の身体に愁莉は焦りを覚えていた。
自分に背を向け去って行く神那の後ろ姿を愁莉はずっと見詰めていた。

「お前らいつの間に、んな仲良くなったんだ?」

そこに突然声が掛けられ、驚きに愁莉の肩が揺れた。声の主は愁莉の背後から現れた。

「神登様」

「この前は名前で呼び合ってなかったよな……?」

神登の呟きは愁莉に届くことなく消えていった。

「ちょうど今、神那様出掛けていっちゃいました。待ってるようにとのことです」

忠実に神那に頼まれた言付けを愁莉は神登に告げた。実はその会話を、神登が密かに聞いていたことに愁莉は気付いていない。

「はいはい。で、」

「で、とは?」

近くにあった腰掛けに神登が座り、その側へ愁莉が立つ。

「何かあったんだろ?」

尋ねる神登には確信があった。神那と愁莉の間に確かに何かがあったのだと。愁莉が気付いたかは知れないが、神那の彼を見る眼が優しくなった。目敏く神登はそれに気付いた。

「別に…ないですけど……」

愁莉にすれば、思い当たることがなかった。ただ気になることはある。

「あの、神登様」












「神那様の身体が初めて会ったときより確実に小さくなっているんです」

細い声で愁莉は神登に告げた。
あの日から気になって仕方がなかったこと。龍神の退行現象は、死に繋がると以前神登は言った。寿命という肉体的命の終わりがない代わりに、精神病を患うことで龍神は死を迎える。
着々と退行現象を起こしている神那に、愁莉は危機感を覚えていた。

「……もしこのまま退行現象が止まらなければ、神那様には一体、どれだけの時間が残されてるのでしょうか……」

愁莉の眼には、神那に残されている時間はもうほんの僅かしかないように見えた。一刻も早く何とかしなければいけない。







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あきゅろす。
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