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幻想
1




「お兄さーん。どーう?安くしとくよー」

商人たちの声が次々と上がる市。人々の顔も陽気で、不幸なんて知らないのではないかとそんなはずもないのに思ってしまう。この町の人間たちは、この世界に潜んでいる闇を知らないに違いない。……暢気なものだ。それはさて置き、急がなくては。早く帰らなくては彼女が待っている。
絶え間なく飛び交う声の間を早足で通り過ぎた。





人形の道





あの、忌々しい事件から三日が経った。
あの日男の……周さんの手を取ったことで僕の生きる世界は変わった。冷たくなった神父の遺体を墓地に埋めた僕ら…と言っても僕しかやらなかったけど……は、村のみんなに挨拶することなくその日のうちに村を出た。一人取り残されてしまったニーナのお母さんが気がかりだったけれど、血に染まってしまった僕に会わせる顔なんてなくて別れを言うことは出来なかった。
それから僕は、ただ周さんの言うことに従った。僕にはそうするしか他に道はなかったから。三日もの間僕らはずっと歩いた。僕にとっては村から外に出るのもこんなに長い間歩くのも初めての体験でとても疲れ、何度も倒れそうになってしまった。けれどいつも僕が倒れそうになると周さんは歩みを止め、咎めるでもなくその場で休憩を取ってくれた。時にはそのまま野宿をして朝を迎え、また歩き始める。
広い荒野は僕にとって驚きに満ち溢れていた。どちらを向いても何もなく、短い草が生えているだけだ。世界にはこんなところもあったんだ……。

「明日には、リノールの町に着きます」

三日目の夜。焚き火を囲っていると周さんが口を開いた。このとき始めて目的地を聞いた僕は、けれどその町の名前を知っていなくてただ首を傾げるだけだった。見兼ねた周さんが説明してくれる。

「リノールの町は、大陸の南西に位置する小さな港町です。主に大陸内の物品の運搬を主流にしています」

そう言って周さんは側に落ちていった小枝を拾い、地面に何かを書き始めた。





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あきゅろす。
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