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幻想
26




「………神那様…………」

愁莉がそう言った瞬間、神那の睫毛が僅かに上下に震えた。握り締める手に力が返ってくる。愁莉はぼやけてうまく見えない双眸を神那の顔に向けた。
ゆっくりと瞼が開く。

「…………っ」

愁莉は何も言うことができなかった。ただ息を飲む。
神那はぎこちなく口を動かした。
愁莉は一言も聞き逃さぬようにただ耳を傾ける。

「……温かい…」

以前より小さくなった神那の手が愁莉の手を握り返した。

「……龍神様だって温かいですよ」

愁莉の瞳からはまた熱いものが零れていた。だが今度のは今までのとは違う。もっと温かいものだ。
愁莉は泪に濡れた顔で不器用に笑ってみせた。

「そうではない」

「え?」

愁莉には一体神那が何を示唆しているのか分からなかった。

「そうではなく、先程のように名で呼んでくれないか……」

先程自分が知らぬ間に神那の名前を口走っていたことに愁莉は顔を赤く染めた。しかし真剣な神那の瞳に愁莉は一度噤んだ口を徐に開いた。

「………神那…様………」





初めて見る神那の笑顔だった。





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あきゅろす。
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