幻想
25
次の日に事件は起きた。
いつも通りに朝起きた愁莉は、異変に気付いた。普段なら愁莉より早く起きて、いなくなっているのに、この日、神那は未だ眠っていた。いや、よく見てみると息をしていない。そう、まるで死んでいるみたいに。
しかし…と愁莉は思い留まった。神那は自分でこの生を終らせることは出来ないと言っていたのだ。だから神那が自ら死のうとする訳がない。
だがここで愁莉の脳裏に神登の詞が甦った。
“生に執着しない”
冷たいものが、愁莉の背筋に流れた。
次の瞬間、愁莉は神那の肩を叩いていた。
「龍神様!!龍神様!!」
大声で神那を呼ぶが何も返ってこない。これをもっていよいよ愁莉は事の重大さに打ちのめされ神那の肩を大きく揺さぶった。肩を掴む手に力が入る。
「龍神様っ…!起きて下さいっお願いですっ……」
目頭が熱くなってきて、愁莉の頬は熱いもので濡れていった。熱いものは次から次へと溢れ出て流れゆく。
「死んでは…死んじゃいけません……」
愁莉は肩を振る手を止め、神那の手を握った。そうすると愁莉は、僅かだが確実に神那が以前よりまた小さくなっていることに気付いた。以前差し伸べられた手はもっと大きくなかったか。こんなに小さかったか。愁莉の瞳から熱い塊が零れ落ち神那の頬を濡らした。
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