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幻想
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そうでなければ、と思った。しかし、そうでなかったら何故今ここに自分がいるのかという矛盾に突き当たってしまう。愁莉は何度も否定しながら、否定を繰り返す故にその考えが確信に近いものになっていくのを感じた。

「………母様は、もう…いないんですね…」

神那の沈黙が答えだった。愁莉はその場に泣き崩れた。頭のどこかでそうだろうとは思っていたものの、いざ真実を告げられるとどうしようもなく哀しかった。
暫く経った頃。どこか遠い所を見つめる神那に、意を決したように愁莉は尋ねた。

「巫女は……巫女は永遠の命を授かり、永遠を龍神様と伴に生きるって教えてくれましたよね。どうして……どうして母様は死んだんですか」

愁莉はこの時、神那の瞳に悲しみが走ったのに気付いた。罪悪感に苛まれる。

「……確かに我は巫女に永遠に命を授けてきた。それも、永遠の時をともに生きるためにだ。しかしあれらはいつも我を残して逝く。自ずからこの崖から身を投げるのだ」

愁莉には甚だ信じられなかった。
自分の母親が自害したのだというのだ。自分の頭の中の、記憶の中の母親の姿が走馬灯のように駆けていった。

「そう、いつも我は独り、残される。自分でこの生を終らせることも出来ず………」

愁莉はこの時漸く気付いた。この場所に来てからどこか遠くを見ていた神那が見たいたものとは、この場所を取り巻く死の念だったのだ。愁莉は、訳が分からなくなった。母が自害した、神那が死を望む、様々なことが一度に愁莉の頭の中に入ってきたのだ。何に怒ればいいのか、何に泣けばいいのか分からない。愁莉は途方に暮れていた。

「お主も、我を残して逝くのだろう?」

「それは……」

答えられなかった。自分がこの崖から飛び降りる場面を想像し、ありえないとも思うが、その一方で母でさえという意識がある。何が母を始めとする巫女たちを自殺に追い込んだのだろう。愁莉の頭にはそれしかなかった。





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