[携帯モード] [URL送信]

幻想
7




悪魔………?
黒い鎧を身に纏い黒馬に跨るその姿は自分を迎えに来た魔の手先だと思った。悪魔とは魔界に生息するもので地獄とは違うことにすら冬登は気付いていなかった。冬登は彼が思うほど冷静ではなかったのだ。
鎧を被った人は冬登から約3メートル離れた所で馬を止め、地に足を着けた。下に広がる屍などものともしないで平気で踏みつけていた。そんな姿を冬登は益々悪魔だと思っていた。
その人は辺りを軽く見渡して冬登の存在を見つけると一瞬にして固まった。その人は近付いて冬登を見下ろした。

「――――」

冬登はその大きさに圧倒され息も出来なかった。目を反らすことも出来ず、まるで蛇に睨まれた蛙であった。
その人は冬登を見下ろした後、徐に兜を取って顔を晒した。

「――――」

冬登は先程とは違う意味で息を呑んだ。目の前の人物の美貌に驚いたのだ。冬登が生きてきた中でこれ程の美貌の持ち主を目にしたことはなかった。やはり人間のものではない……とその美しさを冬登は絶賛するのだった。自分と同じ色の筈なのにその黒は深く、漆黒でありサラサラと風に揺られている。
瞳においては、その深さに吸い込まれそうだった。シャープな輪郭に、スッと通った鼻筋。切れ長の二重瞼は鋭く、捕食者のもののように思わせる。薄い唇は堅く結ばれている。テレビに映っている男性俳優など目ではなかった。これが正しく美形と言われる顔なのだろうと冬登は愕然と思った。

「****」

男は冬登を見下ろし何かを口にした。
しかしそれは日本語ではなく、また英語でもなかった。そのため冬登には男の言っていることは全く理解出来なかった。

「あ、あの…」

男の纏う雰囲気に怒気がないと感じ取った冬登は恐る恐る口を開いた。果たして言葉が通じるかは謎ではあったが。

「****、****」

冬登の声など聞こえていないに違いなかった。男はただ淡々と何かを呟き、冬登に手を伸ばした。伸ばされた手に臆することなく冬登は甘んじてその手を受けていた。
冬登の面前を通過し冬登の前髪を手は一房掴んだ。冬登の漆黒な髪は男の手をスルッと滑るようにして手から落ちた。

「****」

強い視線を冬登に向けると一瞬の内に男は軽々と冬登の身体を持ち上げた。持ち上げられた本人でさえ自分の状況を理解するのに時間が掛かった。それほどまでに迅速且つ自然な動作だったのだ。





[前へ][次へ]

7/9ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!