お題
切望
週に一回、日曜日に鏡夜の入院先の病院に赴く。
鏡夜は白い部屋の中ただひっそりと生きている。
いや、これを生きていると本当に言えるのだろうか。
あの夜、家から追い出した鏡夜が車に跳ねられ重体と病院から電話が掛かってきたのは日が変わった頃。
血相を抱え駆けつけていった両親の姿をただ茫然として見ていた。
『手術は成功したらしいんですけど……意識が戻らなくて…』
病院から電話を掛けてきた母の声は涙声だった。
植物人間
そういうことなのだろう。
意識も感情もなくただ眠ったままの存在。これが本当に生きていると言えるのだろうか。
今日も私は病院へ通う。
安らかに眠ったままの鏡夜の隣に座って、手を両手で握り一心に話しかける。
「先週は仕事が入って来れなかった……すまない。だが来週にはその埋め合わせが出来そうだ。………鏡夜」
力なく投げ出された肢体を見つめる。
どこにも事故の痕跡はない。だが確実に以前より痩せた。このままどんどん痩せていくのだろう。
小さく守らなくてはならなかった私のたった一人の弟、鏡夜。
ただ、目覚めを願う。
end
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兄視点
この話はお題で初めて書いた作品でした。
結構気に入ってたので拍手の方で続編を書かせて頂きました。
本編の続きで兄の見舞い話。
彼の本心を垣間見れる気がします。
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