お題
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人が少なくて見やすかったこと、ライオンの餌の時間が見られたこと、生まれたばかりのキリンの赤ちゃんが公開スタートだったことなど、楽しかったことを中心に話した。
「鷹を夢中で見てたら疲れちゃって、つい不注意で人にぶつかっちゃったんですよ。まあ僕も相手も怪我は無かったんですけど、その相手が凄く綺麗な人で」
今日一番記憶に残ったことだった。僕とはまるで正反対な人。僕の周りにも―――って言っても京丞さんの部下だけど、いないタイプで、凄く印象深かった。
「そうか。次からは、ちゃんと気をつけるんだぞ」
お前はそそっかしいからなと京丞さんは僅かに笑いながら、お酒を口に運ぶ。その姿が格好良いなんて、惚れた欲目なのだろうか。僕は笑みを浮かべて、空になった京丞さんのお猪口にお酒を注いだ。
床についたのは、それから程なくしてだった。京丞さんが飲んでいたお酒が無くなったので、その場はお開きとなったのだ。片付けもそこそこに、僕らは寝室へと向かった。朝になれば、京丞さんの部下の人がちゃんと片付けてくれることになっている。それに申し訳ないなと思うものの、京丞さんが構わないと言うので、その言葉に甘えさせてもらうことにしている。
その夜見た夢は、真っ暗な中に檻が佇んでいる光景だった。檻と言ったけど、どちらかと言うと鳥籠のような形状に近い。その鳥籠の中で、誰かが泣いている。暗がりのせいで、良く見えない。身体の大きさ的に、まだ成熟していない少年若しくは少女のような体躯だ。顔を伏せ、肩を揺らして泣くその姿は見ていて同情を誘う。近寄ろうとしても、鉄格子のせいで近くへ行くことができない。
どうして泣いているの。
何がそんなに悲しいの。
檻の前に屈み込み、泣いている子に話しかける。するとその子は僕の方を見て、こう言った。
ボクヲ殺シテ
その子の顔が、浮かび上がる。
見慣れた顔。
いつも僕が見ている顔だ。
その子は僕だ。
僕だった。
勢いよく飛び起きた。
背中に寝間着が張り付く。寝汗が酷い。首筋にも汗が浮かんでいる。息も荒い。
「咲」
心配そうな顔で京丞さんが僕を窺っている。
ああ、また僕は嫌な夢を見ていたんだ。
魘されていて、目が覚めたんだ。
京丞さんに、また迷惑を掛けてしまった。
「すみません、顔、洗ってきますね」
そう言って、僕はベッドから抜け出した。何かを言いたそうな京丞さんを残して、寝室を後にした。
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