お題
100over記念〜籠〜
夢を見た。
咲夜がいなくなる夢。
急に寒気がして、着替えもそこそこに咲夜が眠る病院へ車を走らせた。
咲夜が入院している病院は組の息が掛かった病院で、望めばいつでも患者の見舞いが出来た。
時間にして二時を過ぎた頃。
ゆっくりと個室のドアを開ける。
中で眠るは昨日と変わらぬ姿のままの咲夜だった。
安堵の溜め息を吐く。
そう、咲夜は一週間前からずっとこの状態なのだ。
突然咲夜がいなくなるなど、有り得ない。
部屋に備え付けられている見舞い用の椅子に腰掛け暫し咲夜を見詰める。
寝顔までなんて美しいんだろう。
それはほんの僅かの力で壊れてしまうガラス細工のようだ。
ほんの僅かの胸の上下だけがその生命を感じさせてくれる。
肉体的な異常は最早ないと言うのに、未だ目覚めることがない。
本当に眠っているだけにしか見えない。……だと言うのに。
すっかり平らになった咲夜のお腹を撫でる。一週間前までは、そこにもう一つの確かな命が宿っていた。
自分と咲夜の子ども。
拳を握り締める。
胸には様々な感情がせめぎ合った。
それは怒りだったり、悲しみだったり。
いなくなって初めて分かる。
確かにそうだ。
自分がどんなに咲夜を愛していたか。
今までこれ程まで誰かを欲し、求めたことはなかった。咲夜だけだ。
しかし、今その咲夜はいない。
……俺のせいだ。
「咲夜、咲夜。…咲夜」
「すまなかった。だから……」
―――起きろ。
起きてくれ。
驚いたことに。
まるで俺の声に答えるかのように咲夜は目覚めた。ぼんやりと覚束ない視線。
暫し喜びに硬直し、咲夜の一挙一動を見詰める。
『ここは…?』
そう咲夜が尋ねているのが分かった。
簡潔に組の病院だと伝える。
辿々しい咲夜の声。
本当に久し振りの。
じんわりと視界がぼやける。
直ぐに診察をはさせようとナースコールに手を伸ばすがそれが押されることはなかった。
「…あな…たは……だ…れ…」
確かに咲夜はそう言ったのだ。
俺を見て。
「咲夜……お前………」
記憶障害。
その後直ぐに駆け付けさせた医者が咲夜の症状を見てそう告げた。
自分のことも誰か分かっていない。
勿論今までのことも。
それならそれでもいいと思った。
例え咲夜が俺のことを覚えていなくとも。
咲夜が無事で、いるだけで。
いや、咲夜は消えた。
愛しい咲。
今度は失敗しったりしない。
お前を二度と離さない。
end
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遅くなりましたがランキング100hit記念の小話を。
京丞視点。
あの時彼は……的な話です。
2009/08/09
(2008/10/23)
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