私立緑葉学園1 罪の色ss 罪の色〜ホワイトデー編〜 事の始まりは、2月14日のバレンタインデー。まさか翔平からチョコを貰えるとは思ってなかった俺は、翔平へのチョコを用意していなかった。バレンタインデーは女性の行事であり、男である俺らには関係ないものだとばかり思っていた。そのことが自分の首を絞めることになるとは……。 チョコを準備していなかった俺に、翔平はペナルティを設けた。5つペナルティが溜まると罰則が発動するとか何とか。しかも今回のことで、既に3つのペナルティが溜まってしまったらしい。 そして今日、3月14日。 今度こそ失敗出来ない。 しっかりホワイトデーコーナーでクッキーを買ったものの、今にして考えると、本当にこれだけでいいのか不安になってきた。 普通お返しって言ったら、こういうお菓子だと思ったのだが、テレビの特番を見ると女性たちはホワイトデーのお返しとしてブランドもののバックとかアクセサリーを要求している。 翔平は果たしてこれで合格をくれるのだろうか……? 一人保健室で唸っていると、ガラガラと戸が開かれ、一人の生徒が入ってきた。 「失礼します」 生徒の声に、思念を振り切り、シャキッとする。訪問者は沖だった。 沖 千秋は、つい最近まで病院に入院していたこともあり、保険医として何かと気に掛けていたりする。退院したからといって、やはりあまり激しい運動はさせてはいけないし、体育科とはよく話し合いをしている。 「一体どうした?」 「ちょっと深爪しちゃって。バンソーコとかありますか?」 沖には翔平とは違った、深窓のお嬢さまのような可愛らしさがある。つまり、この男子校では、格好の餌食になるような容姿だ。 瞼を伏せて、痛みに堪えるような顔をすれば、誰だって心動かされるに決まっている。 「バンソーコだな、ちょっと待ってろよ」 俺には翔平がいるが、あまり二人きりではいたくない。別に俺が不誠実とかそういう訳じゃない筈だ。 俺は沖に背を向け、棚にあるバンソーコを探した。 待てよ。 そう言えば沖と言えば、バレンタインデーに誰かにチョコを上げたとかいう噂があったな。 何気にこの保健室には、興味有る無いに関わらず、様々な情報が入ってくる。ちょうど1ヶ月前に、誰かがそんなことを言っていた気がする。 「付かぬことを聞くようで悪いんだが……」 「はい?」 棚からバンソーコを持って戻り、沖に渡す序でに聞いてみることにした。 「沖みたいな高校生が、バレンタインデーのお返しに欲しいものって何だ?」 沖は俺の問いに目を瞬かせた。その様が小動物みたいで可愛らしい。 「ああ、ホワイトデーですものね。えっと、そうですね……やっぱり何かとか物とかじゃなくて、大事なのは気持ちじゃないですか?」 至極当たり前の返答だったけど、俺は打ちのめされたような心地になった。確かに贈り物は、送り手の気持ちが一番大事なのだ。俺が翔平を喜ばせたい気持ちが。 「淳ちゃーん。今日も一日お疲れさまー!」 元気良く保健室の戸を開けたのは、翔平だった。どことなく機嫌が良さそうである。 「ああ、お疲れ」 勝手にソファに座った翔平に、用意してあった包みを手にし、近寄る。 「翔平」 名前を呼ぶと、期待に満ちた眼でこちらを見上げてくる。その顔に苦笑しながら、俺は手にした包みを翔平に差し出した。 「淳ちゃんっありがとう!」 包みを心の底から嬉しそうな顔で受け取り、包装を取っていく。そうして中身を取り出し、その一つを口に含む。 「んー美味しいっ」 満面の笑みを浮かべ、咥内の物を頬張る。その笑顔を見ているだけで、俺は満ち足りた気持ちになった。 なんかもうペナルティとかどうでも良い。この笑顔さえあれば何だって。 「淳ちゃん、ありがとう」 「ああ」 頭を撫でると、翔平は擽ったそうに身を捩ってみせた。 fin ――――――――――――――― ホワイトデーの話。 バレンタインデーの話の続編です。 どうやら淳ちゃんは、ペナルティを発生させずに済んだようです。 ………二年前に書いたものとは思えない。 20110314 (初出 20090324) 戻る [前へ][次へ] [戻る] |