私立緑葉学園1
聖バレンタインデー
2月14日
甘い甘い一日。
男子高の緑葉には全く関係ない筈の日なのに何故か色めき立つ校内。
この日は保健室も忙しい。
「先生っ……」
恋が終わり泣きついてくる生徒。
想いを告げるのに勇気が足りなくてどうしようと泣きついてくる生徒。
これが男子高のバレンタインデーの風景だって言うから笑ってしまう。
そう俺が思うのは、俺が恋に勝った人間だからなのだろうか。幼なじみの翔平と所謂恋人同士になってから約半年が経った。長年の片思いが実った結果になった俺にはこいつら、恋に敗れた生徒たちを慰めようにもいい言葉が見付からない。
一人、また一人と保健室に来ては思いの丈をぶつけては帰っていく。
「相変わらず繁盛してんなあ」
「ああ、不和か」
煮えきれない生徒たちの相手をしていた今の俺にとっては気が休まる相手だった。ある意味、翔平と良い仲になったのはこいつのお蔭である。
「受験はどうした受験は」
「ああ、いいのいいの。息抜き」
三年のこいつは今年になってからめっきり姿を現さなくなった。受験で忙しいのだろう。恐らく久し振りに学校に出てきたのではないだろうか。
「そう言えばあの幼なじみからチョコ貰った?」
「翔平から?」
どうして。何故。
そう続けたら不和は驚いた顔をして見てきた。
「何故って……。二人、まだ付き合ってんだよな?」
「お陰様で。で、それが一体何か関係あるのか?」
「いや、まあ。―――男同士だし、そんなものなのか」
ぶつぶつと呟く不和を不思議に思いながら敢えて聞くことはせず放って置くことにした。
まあ不和が言いたいことは分からないでもない。確かに俺か翔平のどちらかが女だったらそうしたかもしれないが、残念ながら男だ。このイベントには関係ない。
珈琲でも飲んでいくかと尋ねると不和は受験生だしなと断り、保健室を後にした。本当ついでに寄ってみたようなものなのだろう。
終業の鐘が鳴り、勤務時間の終わりが訪れた。そろそろ生徒ラッシュも終わった頃だし俺も帰ることにしよう。
白衣を脱ぎ、ハンガーに掛けてロッカーにしまうと景気良く保健室に戸が開かれた。
またか……と内心で思いながら俺は新たな“相談者”に向き直った。
「って……翔平?」
「えへへ、淳ちゃんお仕事お疲れさま」
そう言って翔平はソファに腰を下ろして、寛ぎ始めた。
「どうした、一体?」
確か今日は約束の日ではなかった筈だ。
とっくに寮に帰ったと思っていた。
「淳ちゃんに渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
満面の笑みを浮かべた翔平から渡されたのは甘い“チョコレート”だった。
「これって……」
「バレンタインデーだから」
そう言ってにこにこと笑う翔平。
俺はつい手中の包みと嬉しそうに笑う翔平とを見比べていた。
「嬉しくないの?」
いつまで経っても何のリアクションもしない俺にじれたのだろう。僅かに顔をしかめた翔平は泣きそうな声で尋ねてきた。
「いや……嬉しいよ」
「本当!?」
次の瞬間、満面の笑みを浮かべた翔平。
俺はすっかりその笑顔にやられてしまっていた。
だから翔平の次の言葉に俺はすっかり困惑してしまった。
「淳ちゃんからは!?」
「え!?」
まさか聞かれるとは思ってもみなかった質問。そもそもバレンタインデー自体乗り気じゃなかったし。ヤバいな、用意していないって言ったら翔平、悲しむよな。
だがしかし用意していないものはないもので。俺は正直に翔平に打ち明けた。
「ふーん……淳ちゃん、用意してないんだ」
「……すまない」
まさか翔平からチョコレートを貰えるとは思ってもみなかったし、翔平がチョコレートを渡すとも考えなかった。
「そんな淳ちゃんにはペナルティが発生します」
「は?」
今、俺はすっかり間の抜けた顔をしていることだろう。翔平の突然の発言に驚き声も出ない。
「ペナルティが5つ溜まると、淳ちゃんには罰則が施行されます!」
「罰則?」
一体何なんだ。罰則?何だそれは。
ただ翔平には引け目を感じているので強くは出られない。
「それはなってみてからのオタノシミです!」
よく分からないが、ペナルティを貰わなければいいことだろう?そう簡単に5つも貰わないだろ。
「因みに今回ので発生するペナルティは3です」
って多っ!!いっきに過半数占めちまったぞ。つまり次何かやらかしたら罰則が施行されるってことか?
「あ、はははっ」
「ふふふ」
苦笑いしか浮かばない。
Happy Valentine !
―――――――――
あとがき
ブログで掲載していた小話。
行事に則ってバレンタインデーの話。
20100215
(20090213)
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