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短編
5周年記念小話第3弾







あの、屈辱的なバイトから2ヶ月が経った。
あの後、結局3回も男の手でイカされてしまった。まあ、ほら、若いからさ。仕方ないんだよ、うん。俺の意志ではないと信じたい。
しかし驚くことにあの自称売れっ子画家、俺を満足―――いや、イかせた後は黙々とデッサンをし、書き終えると最初約束した通りのお金を払ってくれた。絶対ケチると思ったのに。まあそのお陰で、俺は新作のゲームを買えたんだけど。

男とはそれっきりで、この2ヶ月全く会ってない。まあ連絡先を交換した訳じゃない、当たり前って言えば当たり前だ。それに別に会いたい訳じゃないし。俺は早くあの日の出来事を忘れたい訳だし、好都合だ。








―――っつうのに、何で俺は、またあの男の手を思い出しながら処理しちまってるんだ!

ティッシュに欲望を吐き出し、萎えた息子を見て、ガックリと肩を落とす。
何でなんだ、俺よ。
ちゃんとオカズとして、悪友から借りた好みのAV女優が出るエッチな本を準備したというのに、頭に浮かぶのは2ヶ月も前のあの日の男の手の動き。
こんなんじゃあ、俺ってば、ホモみたいじゃねえか。
そんなはずねえ!絶対ねえよ!
そう自分に言い聞かせてみるものの、やっぱオナニーでは男の記憶を使ってしまう。
うー……もうこれは完全に病気だ。








そんな俺の苦悩はさて置き、俺が通う学校の美術の授業では平日の半日を利用した課外授業というものがある。と言っても、公園でスケッチ大会とかそういうのではなく、芸術鑑賞というものだ。美術館に行って、素晴らしい作品に触れることで、脳が活性化され、感受性が豊かになるとか何とかという理由から、この時期に毎年行われているらしい。
全く持って芸術に興味のない俺には、苦痛な行事としか言いようがない。

「本日これから行くところは、現在第一線で活躍している画家が開いた個展です」

移動中のバスの中で、芸術の教師が今日行く美術館について色々と蘊蓄を並べている。俺にはそれがちょっと奇妙な子守歌にしか聞こえなくて、渡されたパンフレットも何のその、眠りの世界へと旅立った。

目が覚めた頃にはもう目的地に到着しており、俺は欠伸をかみ殺しながらクラスの列について行く。美術館に入ると二階のとあるフロアで自由行動となった。
後日感想レポートなるものを提出しなくてはいけない、ということで俺みたいに芸術に興味のない生徒は一応は真面目に絵を見ている。いつまで持つか分からないが。
適当に一周して後は寝てよう。そう思いフロアを回ること十数分。フロアの三分の二は見た。今回個展を開いているとかいう画家の絵は、人物画が多い。しかし少し非現実的な絵を描く。人間がまるで妖精とか天使のように神秘的に画かれる。描かれている人物が美しい少女や少年が多いからだろうか。鮮やかな青が凄く特徴的な絵ばかりだ。

大体絵の特徴も掴めてきて、レポートも書けるだろうと思って、次の一画に侵入すると、そこは今までの鮮やか青とは打って変わって、小さな額縁に入った真っ黒な絵が飾られていた。
真っ黒な絵と言っても、全面真っ黒な訳ではない。黒色の背景にぼんやり浮かび上がる白い肌を持つ裸体の少年とも青年ともつかぬ子どもの絵。今までのとは違って、ダークな妖しげな雰囲気を持つ絵だけど、その中に僅かに清廉さを感じさせる。

「…………………」

何だろう、凄く見覚えがある絵だ。
だけど俺は、今まで美術館とかに行ったことがない。見覚えがあるはずなんて、ないはずなのに。
近付いてまじまじと絵を見詰めていると、絵の中の子どもの顔に眼が留まった。見覚えがある……。いや、見覚えがあるはずだ。だってそれは……。

「俺!?」

ここが美術館ということを忘れて叫んでいた。

そう、その子どもの顔は、俺が毎朝洗面台の鏡で見る自分の顔だったのだ。
なんで俺の顔が。
いや、ちょっと待てよ。
この絵の構図、もしかして、もしかしなくとも……。

2ヶ月前のあのデッサンと同じじゃねえか!

ん、ってことはこの絵、あの男が描いた奴か!!!
ほ、本当に画家だったんだ…………。
驚きが大きくて、俺はそれから集合時間までずっとその絵の前で立ち尽くしていた。









放課後。
学校前で解散となった俺は、その足で町のある場所に向かっていた。
2ヶ月前に一回来ただけの、あの骨董屋だ。骨董屋は前来たときと何も変わっていなかった。
店長らしき爺さんがカウンターでうたた寝している。俺は真っ直ぐにカウンターまで行くと、爺さんに思い切って尋ねてみた。

「ん?なんじゃ?ああ、REN君のことか」

地下を使ってる画家について教えろという俺の質問に、爺さんは半分寝ぼけながら教えてくれた。
REN。
今日貰った個展のパンフレットに載っていた画家の名前と全く同じだ。
やっぱり、あの絵はこの前の絵だったんだ。

「今日も来ておるよ」

そう言って、地下へ続く階段を指差す爺さんを尻目に、俺は階段を駆け下りていった。

地下もまた、2ヶ月前と何ら変わりようがなかった。換気されてないだろう籠もった空気、油絵の具の独特な香り。その全てが懐かしい。
目的の男は直ぐ見付かった。

しかし俺は声を掛けることができなかった。
真剣な眼差しでキャンバスに臨む男の姿に息を飲む。この顔も、凄く久し振りだ。
感動が胸を打つ。
そのときパキッと何か破片を踏んだ音が空間に響き渡る。ヤベエと急いで足を退かすが、全ては後の祭で。

俺は2ヶ月振りの男の会合を果たすことになる。

「………………」

「………………」

「………………」

「オイ、なんか言えよ」

互いに見つめあって沈黙を起こすこの状況に、先に根をあげたのは俺の方だった。明らかに俺が何か言うべき立場だろうに、俺は照れや動揺が先走り、男にその責任を擦り付けた。

「……………どちら様だっけ?」

「なっ!!?梨元 康則だ!!2ヶ月前、デッサンのモデルやった梨元だ!!!」

想定外の男の反応に憤る俺。まさか忘れているはずがないだろうと思ってたのは俺の驕りだったか。

「………プッ。ハハハハハッ、んな必死に言わなくても覚えてるっつーの」

ぜーはーと肩で息を吸う俺を高笑う男。
だ、騙しやがったのか!!

「悪い悪い。で、その2ヶ月前に来た康則君が一体何の用だ」

全く悪いとは思っていない口振りだ。
まあ気にしたら負けということで気にしないことにする。
そんなことよりも、“何の用”か。
確かに、俺、何で来ちまったんだろ。

あの時、美術館でこの男の絵を見てから、居ても立ってもいられなくなっちまって、気が付けばここに来ていた。
特に用なんてないし、何か言いたかった訳じゃない。
でもそうだったら、一体何で俺はここまで来ちまったんだろうか。

答えのない問いに一人悩んでいると、俺は手に持っていた筆を煙草に変えて、一服を始めた。深く煙草の煙を吸い込み、思いっ切り吐き出す。

「何、もしかして俺の手が忘れられなくて来ちまったとか?」

男のフザケた言葉にドキリと胸を鳴らし、昨日一人でシたときのことを思い出す。
2ヶ月前のあの日からずっと、一人でスるときは、この男がオカズだった。
この男はどう触ってきたか、力の入れ方は、指の運び方、その手の熱さ、大きさまでもが頭の中に浮かび上がってくる。

「え、マジ?……まあ巧いからな、俺」

何も返して来なかったからなのか、男が勝手な解釈をする。
しかしそれを否定できない俺がいる。
そう、確かに忘れられなかったんだ。
ずっと。

「悪いことしちまったなー」

そう言うと男はボリボリと頭を掻く。
言葉とは裏腹に、その声には全く申し訳なさがない。どちらかと言うとニヤニヤと楽しんでいる感じを覚える。

「で、どうしてほしい?」

吸っていた煙草を床に擦り付けると、男は笑いながら尋ねてきた。笑いながら、なのにその眼は笑っていない。寧ろ鋭い眼光を見せ付けてくる。

これは、史上最強の質問になりそうだ。
そう、これからの俺の人生を全て揺れ動かすような。そんな気がした。











おわり



――――――――――――――

あとがき

5周年記念小話第三弾です。
投票で第3位にランクインした『いまどき高校生事情』の短編です。
いや短編というか続編ですかね。

エロを入れたらかなり長くなりそうなので強制終了させました。
ランキング3位なのに、一番長くなったらちょっとなーと思ったので(第1弾よりも第2弾の方が長いのは秘密)

久し振りに読んでみたら、結構楽しめた。昔の作品なのに読める。書いてても楽しかったですし。こういう受けは書きやすい。




20120212





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あきゅろす。
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