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短編
飼い主様とお犬事情





『一年一組の犬丸 崇さん、至急数学準備室へお出で下さい』

学校に入学して一年も経たずに、すっかり呼び出し放送の常連となってしまった。しかしこんな短期間にここまで放送で呼ばれているのは、俺の他に誰もいないだろう。

「おいわんわん、また飼い主様がお呼びだぞー」

笑いながらそんなことを言ってくるのは、クラスが一緒で悪友である三上だ。以前口にした飼い主と飼い犬の関係がツボに嵌ったらしく、それからというもの何かと飼い主というワードを使いたがる。

全く的を得ていない、意味のないワードだったら別に流しておけばいいだけだった。しかし、ある日を境に本当に俺と犬飼の間に主従関係が成立してしまったから始末におけない。飼い主というワードが出ると、ビクンと身体が反応してしまう。

俺は囃し立てる三上をスルーして、教室を後にした。呼び出し放送があってから5分。それまでに数学準備室に来ないと、再び呼び出し放送がかかってしまう。いや、それだけならまだマシだ。

以前、呼び出し放送を無視したとき。
とんでもない事態に陥った。









あれは、主従関係を結んでまだ日が浅い頃。
俺はこの主従関係に納得していなかった。関係を結ぶことになったあの日、俺はどうにかしていたに違いない。そうじゃなきゃ、こんな馬鹿げた関係を結ぶはずがない。あんな契約無効だと、一人憤慨していた。

そんな心情の中、呼び出し放送を無視した俺は、当然の行いをしてやったに過ぎない。そう、これは遠回しの抗議のつもりだった。しかし、俺はこの行動を後悔することになる。

「犬丸 崇。俺の呼び出しをシカトするとはいい度胸をしているな」

呼び出し放送から15分後、教室でのんびり寛いでいるところに、突然犬飼が乱入してきた。あの低く通る声が教室に響き渡る。男子も女子もお喋りを辞め、固まって乱入者の方を凝視している。かく言う俺も、突然現れた犬飼に、心臓が飛び出るくらい驚いて、頭が真っ白になってしまった。

「3秒だけ待ってやる。さっさと立ってこっちに来い」

有無も言わさぬ声色で、命令を下す本人は教室に入って直ぐの戸の前で仁王立ちしている。俺は直感的に直ぐに立ち上がり、犬飼の下へと駆け寄った。犬飼の下へ着くと、犬飼は何も言わずただ見下ろし、俺の腕を掴むと教室から連れ出した。

廊下では擦れ違う人、擦れ違う人、目を見開き凝視してきた。そんな中、犬飼は脇見も振らずに歩いていく。
数学準備室に到着すると、漸く掴まれた腕が離された。

「呼び出しを無視した言い訳を聞こうか」

高圧的な物言いに、俺は何も言えず目を反らした。そんな俺の態度に、犬飼は深い溜め息を吐いた。怒りが緩和されたのかと、ちらっと犬飼の様子を窺うとイヤな笑みを浮かべた犬飼とかち合った。

「―――いい度胸だ。良いだろう、飼い犬の躾は飼い主の責務というしな」

ふうと息を吐き、ネクタイを緩めだす犬飼に見取れてしまったのが間違いだった。次の瞬間、俺の視界は回転し、背中を床に叩き付けられていた。更に、背中の痛みに顔をシカメている間に、両手首を纏めてネクタイで頭上で固定されてしまった。

「さあ、躾の時間だ」

耳元で囁かれた声は、この状況を非常に楽しんでいるようで、怒りはどうした、怒りは!とこっちが言いたくなるほどだった。しかしそんなことを言う余裕が、今の俺にあるはずもなく、俺は次に起きるだろう事態をただ待ち構えることしかできなかった。

「まずは飼い主の言うことを聞かなかった駄犬に罰を与えなくてはな」

罰という言葉に目を開く。一体どうするつもりだと、犬飼の行動に釘付けになる。
犬飼は床に倒れる俺の直ぐ横に立ち、見下す形で、話し始める。

「罰には二種類ある。一つは精神的な罰、もう一つは肉体的な罰だ。お前はどちらがより苦痛に感じるだろうか」

そう言って目を細める犬飼。鬼だ、鬼畜だ。

「そうだな……今日は特別にその両方にしてやろう」

一人考える犬飼だったけど、案外直ぐに答えが導かれた。しかも俺にとっては最悪な形で。
肉体的な罰ってことはこのまま犬飼のサンドバックにでもされてしまうのだろうか。でも、もう一方の精神的な罰って一体どんな罰なんだ……。不安が身体を支配する。犬飼はそんな俺を嘲笑うかのように、不適な笑みを浮かべ、長い脚を俺の身体へ伸ばしてきた。

「――――っつ!!」

一切曇りのない革靴が俺の股間を軽く押す。僅かな衝撃が身体を走る。まだ叫ぶほどの痛みではない。しかし、足がそこにある限り、いつ今以上の強い力を込められるか分からない。

「男の弱点は簡単だ。ただここを強く踏むだけでいい」

身体に緊張が走り、嫌な汗が湧いてきた。鼓動は早くなり、身体に熱が籠もる。
犬飼はそんな俺を上からまじまじと見つめて、いや観察している。しかし次の瞬間、いきなり激しい痛みが俺を襲った

「ッダアア――ッツ」

何の躊躇いもなく男の弱点であるそこを踏み付けてくる犬飼。同じ男じゃない。いや、人間でもない。
俺は痛みにのた打ち回ったが、腕は拘束され、身体の上からは力で押されているため立ち上がることも逃れることもできない。
責め苦はほんの数秒だけだった。
しかし俺は心身ともに疲労困憊し、解放されても暫くは中心の痛みで何も喋ることはできなかった。

「―――舐めろ。そうしたら今回のことは許してやる」

未だ痛みで苦しむ俺の顎に、無情にも犬飼は靴を当ててきた。俺は痛みに涙が浮かぶ目を、犬飼に向けた。犬飼は全く笑っていなかった。ただ非情に無情な顔をして俺を見下ろしていた。
俺は視線を差し出された靴へと移した。曇り一つない革靴は、汚れなど見えないが、俺の人間としての矜持が靴を舐める行為を拒んだ。靴を舐めるなど、できるはずがない。
犬飼は、そんな俺の心情を機敏に察ししたようで大袈裟に溜め息を付くと靴を顎から離した。

「まだ分かっていないようだな。あれじゃあ足りな過ぎたか」

靴を舐めることが免れたと内心喜んでいると、犬飼はそんなことを言い、足を再び俺の中心へ添えた。

「次は使い物にならなくなるかもな」

平気で残酷なことを言う犬飼に、俺は戦慄した。犬飼ならば、本当にやりかねない。俺は慌てて犬飼を止めた。

「舐めます!靴、舐めますから、それだけは勘弁して下さいっ」

最早涙声になってしまっていた。だけどそんなこと最早どうでも良かった。
犬飼の靴は俺の中心から離れた。安心して身体から力が抜ける。しかし、犬飼は安心などさせてはくれなかった。

「“舐めます”じゃないだろうが。言い方を考えろ、“犬”」

ドスの利いた声で、犬飼は俺に命令する。
俺は最早“犬”だった。犬飼の“犬”になっていた。人間ではない俺に矜持なんてものは必要なかった。

「どうか、靴を舐めさせて下さいっ」

即興の言葉に、犬飼は無言だった。しかしやがて、ゆっくりと犬飼の靴が俺の口元へ差し出された。俺は目の前の靴を、何の躊躇もなく舐め上げていた。








「いい子だ。いい子にできた奴には、褒美をやろう」

暫く黙って靴を舐めていたら、徐に靴がしまわれた。俺はきょとんとして犬飼を見上げると、犬飼は満面の笑みを浮かべ、俺の頭を無造作に撫でてきた。
“褒美”と言った。一体何が始まるのだろう。俺は犬飼をじっと見つめる。

「さっきは痛め付けたからな、ここもちゃんと可愛がってやらなきゃかわいそうだからな」

犬飼は俺の中心へと手を伸ばし、制服のズボンの中から俺のペニスを取り出した。だらりと垂れたペニスはさっきの衝撃のせいで、若干赤く腫れているような気がした。
突然ペニスを取り出されたというのに、俺は嫌がる素振りも見せなかった。犬飼のなすがままに完全に身を任せていた。

柔らかなペニスを、犬飼の大きな手が握って擦り上げる。巧みな手業に俺のペニスは固くなっていく。

「……あぁ…っ……はぁ……イクッ…」

早くも快感は昇りつめていき、俺は欲望を犬飼の手の中に吐き出していた。俺がイった余韻に浸っている間に、犬飼はティッシュで手を拭き、ネクタイを締め直して身なりを整えていた。対する俺は、腕を頭の上で拘束されたまま、ペニスを出して床に倒れている。

「一つ、俺の呼び出しには5分以内で応じること。―――破れば、分かっているな?」

俺ははっきりと頷いていた。











思えば、あの時初めて他人の手でイかされたというのに、全く気にしていなかった。それよりも、もっとずっと刺激的な体験をしたからだろう。
もうあんな体験はしたくない。
俺は足を数学準備室へ急がせた。






おわり






―――――――――――――
あとがき

本編にいれられなかった要素を詰め込みました。鬼畜な飼い主様です。

続きを書く予定はなかったのですが、ランキングでのコメントを拝見し、久し振りに書いてみることにした。
前作よりも露骨表現が増えたので、もしかしたら苦手意識を持たれる方が増えたかもしれませんね。
作品の雰囲気をぶち壊してしまいました。
すみません。



20110614




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あきゅろす。
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