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短編
俺とあいつの財布事情




この状況を一体どうすればいいだろう。
俺は今困っている。俺の目の前には俺の給料じゃ到底頂けないようなご馳走が並んでいる。そして何より驚くのは俺の歳の半分ほどしかないだろう、学生がそれを美味そうに食って、はたまたそれを俺へ勧めてくるのだ。
この状況……一体どうすればいいのだろうか。






俺とあいつの財布事情






俺の名前は結城 和正(ゆうき かずまさ)今年で35歳を迎えて立派な中年のおっさんになってしまった。この歳だというのに婚期を逃し、嫁さんはなし。仕事もできる訳でもなく、さっぱりしない平凡なサラリーマン人生を送っていた。
それがどういう訳か、巷で話題の高級料理店で知らない若い男と向かい合っている。この若者、名は越後屋 司(えちごや つかさ)と言い、なんと俺の勤めている会社社長の一人息子である。

「おい、和正食べねえのか?」

司は一見すると最近の若者で髪をワックスで立てたり、耳にピアスを開けたりしている。何分顔がいいだけにそれがやけに決まっている。女の子もほっとかないだろうに、何故俺みたいなおっさんとこんなところで食事をしているのやら。

「金なら気にすんなよ?俺の奢りだから」

パクパクと俺の目の前で箸を進める司。その一口が俺の時給に当たると考えると何だか涙が出てくる気分になる。そもそも何で社長息子と平社員が一緒に飯を食べようとしているのか。それは半月前に遡る。半月前、俺は残業で十時をとっくに過ぎた頃に漸く帰途へ着いた。今月は壊れた炊飯器を買い換えたため財布が軽い俺は少しでも出費を減らすため歩いて帰っていた。ちょうど近所の公園の前を通ったとき、公園の茂みに人が倒れているのを発見してしまった。まさか死体かと様子を窺うともぞもぞと身体を動かしていて、俺は取り敢えず家に連れて帰ったのだ。







それが司との出会いだった。






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あきゅろす。
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