短編
俺とあいつの仕事事情
「君にこの映画の主役が決まったよ」
社長から直々に呼び出され告げられた仕事の話。
声優の俺、野田 雅樹に取って久し振りに入ったドデカい仕事だった。
「ありがとう御座います!」
声を上げて喜んだ。それはもう3日も前のことである……。
「は?」
言われたことが理解出来ない。と言うより余りにも突拍子のないことで信じられない。
「だからすまないんだがあの話……なしになった」
「はあぁ!?ど、どうしてですか!?」
オフィスいっぱいに広がる、俺の声。その場にいた誰もが俺の方を振り向く。
「それがだなあ、あちらさんの方で主役を今世間に人気の俳優、緒形 詠迩に変えると言い出してな……。緒形 詠迩の事務所から強いプッシュがあったらしい。あそこはうちより強いしな……」
緒形 詠迩。現在巷で流行の売れっ子俳優である。女にも男にも人気のある奴でCMやドラマに出ているのを俺も見たことがある。顔もよくそこらの今だけアイドルグループなんか目ではない大人の魅力に満ち溢れている。だからって……。
「人の仕事を横取りする権利なんかねぇ!」
くそっ折角の大仕事だってのに。
何が緒形だ!何が詠迩だ!
「まぁまぁ、野田君。代わりと言っちゃあナンだが君には主人公の親友役をやってもらうことになったから」
もしここで名の売れた声優だったらやりません!っと突っぱねることが可能なのだが生憎俺はどうせ駆け出しのひよっこ声優である。
体よく回された親友とは名ばかりのサブキャラになったからといって文句は言えない。言えないが……。
「クソ野郎っ!」
少しぐらいは言わせてもらう。
声取り初日。
その日は朝から不機嫌だった。なんせ本職でもないのに本職の俺から主役の座を奪った忌々しい男と会わざるおえないからだ。初日は顔合わせだけでそれ故に嫌だ。だが仕事は仕事。行かなくてはならないものは行かなくてはならない。俺は軽い朝食を取り部屋を飛び出した。
「おはよう御座います」
スタジオに着いたらつい先日仕事で同じくなった高橋さんがいた。俺は高橋さんに挨拶をし隣に腰を下ろした。
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