現代 16 自称宇宙人と言うだけあって、宇宙に関しては過敏に反応していた。 テレビで宇宙に関する特集が組まれれば必ず見たし(電化製品を極端に嫌う癖に、その時ばかりはテレビの前を陣取って離れない)、図書館では一式宇宙に関する本は借りて読んでいた。 「宇宙工学科なんていう学科のある大学だってあるし、そこに行けばもっと宇宙のことを知ることができると思うぞ。ロケットの製作に携わっているところもあるかもしれないし」 碌に下調べもせずに話しているため、いま1つ確信を持って話すことはできないが、それでも十自称宇宙人の興味を惹くには十分だった。 俺の言葉に、自称宇宙人は本を読むのを止めそれからじっと一人で何かを考え始めた。 そんな自称宇宙人に内心でガッツポーズを浮かべた。 自分の進路も儘ならないというのに、人の進路の心配だなんて。でもこれで自称宇宙人も進学について前向きに考えるだろう。そう思い、再び自分の分の白い紙へと向き直った。 翌週。 結局俺は、低過ぎでも高過ぎでもない無難な大学の名前を書いて用紙を提出した。 文系か理系かは、自分の五教科の成績と相談して、文系を選ぶことにした。とくに行きたい学部があるということではない。 進路希望の用紙を回収された次の日。俺は担任に呼び出された。 「何ですか?」 呼び出される覚えが全くなかった俺は、突然の呼び出しに頭を捻ることになった。 放課後の職員室で、担任と向い合って座らされる。これは長くなるか?と壁に掛けられている時計の時間を気にしながら、用件を促した。 それに対して、担任はまず最初に何も言わずに一枚の用紙を俺に着き出してきた。 受け取れ、ということなのだろう。俺は渋々とその紙を受け取った。 「戸野部と同じ大学に行きます………?」 よく見覚えのある用紙。つい最近まで俺の頭を悩ませてきた代物、進路希望の用紙だった。 ただ、そこに書いてあったのは俺が書いた大学名ではなく、別の言葉が掛かれていた。 「舘向の用紙だ」 俺がその用紙を見たのを確認して、担任が溜息交じりにその持ち主を明らかにした。 教師が別の生徒の進路希望を他の生徒に見せるなよと言いたいが、確かにこれでは仕方がないかもしれない。 目の前で頭を抱えている担任を見て、俺も同じく頭を抱えたくなった。 ……まさか、こうくるとは。 「お願いだ、戸野部」 「いや、無理ですって」 先週予想したことが今まさに起ころうとしている。 担任が俺に対し、頭を下げている。大の大人に頭を下げられるほど俺は偉くないし、自惚れたりもしない。 「何も、舘向を説得しろとは言わない。だから、戸野部」 そう言ってもう一枚別の用紙を俺に差し出す担任。 それを受け取ると、今度は正真正銘俺が提出した進路希望だった。 「進路に、T大と書いてくれ」 そうきたか―――! まさかの担任の変化球に、俺は言葉を失った。 てっきり、また自称宇宙人を説得しろとか言われると思っていただけに、この変化球は俺の思考の外をいっていた。 「いや、普通ここは教師として友人と同じ大学に行きたいなどといった安易な気持ちで大学を決めるなと舘向に指導するところでしょうって」 俺にT大は絶対無理だ。日本一の大学だぞ。 学校として自称宇宙人にT大に進出してもらいたい気持ちは分かるが、だからって俺には目指すには無謀過ぎる。 [*前へ][次へ#] |