Calenduraさまへ/独り占めしたい人
ばいきんまんが、知らない女の子と話していた。
泣いてるその子をなんやかんやと世話してあげて、落ち着いたら、楽しそうにおしゃべりして。
それを上空のUFOで眺めながら、アタシはしばらくぼうっとしてたんだと思う。
(誰、あの子)
ようやっと形になった思考はこれ。
ブスではなく、でも可愛くもない女の子が笑う。
ばいきんまんが、ただ女の子と話してるだけなのに。
アタシ、なにやってんだろ?…あ、手が触れた。
「優しいね、ばいきんまん」
突然の呟きに驚くと、隣にアンパンマンが浮いていた。
「アンパンマン…いつの間に来たのよ」
「僕はずっといたよ。
ドキンちゃん、気づいてなかったみたいだけど」
「………」
全然気づかなかった。
それだけ自分が、あの二人に気を取られていたのかと思うと恥ずかしい。
「あの子、さっきまで泣いてたみたいなんだ。でも、僕が来たときはもうばいきんまんが助けてくれてたんだよ」
…ふぅん、そうなんだ。
何考えてんのか知らないけど、珍しく人助けなんかしちゃってんのね、アイツ。
「あの二人、最近一緒にいることが多いし、きっと仲が良いんだね」
「えっ?」
「ドキンちゃんもあの子と友達なの?」
……見たこともない子だ。
それより、ばいきんまんと一緒にいることが多いって…いつから?どうして?
全然気づかなかった。考えてもみなかった。
だってあのばいきんまんに女の子が寄ってくるなんて、微塵も思わないじゃない。
「…アタシは知り合いじゃないわ」
「そうだったんだ〜。僕てっきり、元々ドキンちゃんの友達なのかなと思ってたよ」
「…知らないわよ、あんな子」
誰と会ったとか友達が何人いるか、なんて報告する義務もないけど。
(なんなの、あの子)
アタシはそう思うだけで精一杯だった。
「アタシ、帰る」
「うん、ばいばい」
笑顔で手を振るアンパンマンを残し、アタシはUFOを旋回させた。
…ばいきんまんの方は、見ないようにした。
さっさと城に帰りつくと、お風呂に入る。
イライラする。
(アタシには別に関係ないのに……)
ばいきんまんが誰と会おうと、誰を好きになろうと、それは自由だ。
アタシに気を使う必要なんて全くないし、あの子のことをわざわざ伝える義務もない。
(でも……)
気になってしまう。
あの二人のことを考えて色々と想像してしまう自分を消せない。
二人で会って何してんのかな?
あの子は、ばいきんまんのことどう思ってるんだろ?
ばいきんまんは…、単純だから調子に乗って、もう好きになってるに違いない。
「別に良いんだから、ばいきんまんなんか!」
言葉に出し、自分に言い聞かせる。
眠れば記憶も薄れるだろうと思って、ばいきんまんが帰ってくるより早くに寝た。
…でも、これは失敗。
夢の中にもあの子が出てきて、憂鬱な朝を迎えることになった。
次の日。
朝ごはんを一緒に食べるばいきんまんに、普段通りに接することができない。
「…ドキンちゃん、なんかあったの?」
「アンタはいいわよね。毎日楽しいんでしょうね、きっと」
「なんなのだ、一体??」
アタシはもう少しなにか言ってやりたかったが、困ってるばいきんまんが可哀想だったからやめた。
お昼頃になって、ばいきんまんがUFOで出かけていった。
アタシは散々迷った挙げ句、尾行していくことにした。
もうばいきんまんの姿は見えなかったが、UFOに付いている装置で相手の居場所は分かる。
ばいきんまんは谷の近くにいるようだった。
「あ…、昨日と同じ場所?」
気づかれないよう、UFOを近くの森の中に隠す。
双眼鏡を取り出すが、それで確認するまでもない…、あの女の子も一緒だ。
「なにしてんのかしら…。こんな所でデートって変よね」
谷にかかる丸太の橋。
女の子はそれを渡ろうとしていて、ばいきんまんはUFOでその後に続く。
「きゃー!怖い!!」
丸太を渡りかけて、女の子が叫ぶ。
ぐらりとバランスを崩しそうになると、ばいきんまんがマジックハンドで体を支えた。
「落ち着くのだ!下を見ないで、集中すれば大丈夫だぞ!」
「やっぱり怖くて出来ない……」
女の子が泣き出しそうになる。
「今まで練習してきた自分を信じるのだ!向こうにいる友達に会いに行くんだろ!?」
「…、そうだ私…プレゼントを渡しにいくんだ…!」
女の子が体勢を立て直す。
ばいきんまんは万が一に備えてマジックハンドを準備しながら、「いいぞいいぞ」と声を掛ける。
のろのろと進み始めるその子を、アタシも息を潜めて見守った。
もう少し、もう少し。
そうして最後の一歩、女の子の右足が向こう岸に着地した時。
「やった…!」
アタシも思わず呟いて、胸を撫で下ろしていた。
「わーい!」
「やったやったー!!」
はしゃぐ女の子とばいきんまん。
どうやらあの子は、向こう岸にいる友達に会いに行きたかったらしい。
でも丸太の橋が怖くて渡れない。それをばいきんまんと練習……つまり、ばいきんまんはただのコーチ?
「なんだったのよ、全く……」
アタシの変な想像は、完全に早とちりだったって訳。
でも、「仲が良いみたい」なんてこと言われたら誰だって勘違いするわよね!
「ありがとう、ばいきんまん!」
「次からは一人で頑張るんだぞ!」
笑顔で去っていく女の子。
見送りながら、ばいきんまんは息をついていた。
「良かったね、ドキンちゃん」
「!?」
気がつくと、またしても隣にアンパンマン。
パン入りのバスケットを持って、配達の途中のようだった。
「僕も気になって来ちゃったよ。あの子、橋を渡れるようになって良かったね」
「そうね」
「…僕てっきり、あの女の子とばいきんまんは怪しい関係なんじゃないかと思って……」
「!?」
「なー!アンパンマン!
ドキンちゃんになにしてんだぁ!」
「ばいきんまん!」
アタシがびっくりしていると、ハンマーを構えたばいきんまんがやって来た。
アンパンマンは「これ、あげる」とアタシにバスケットを手渡すと、ふふふと微笑んで帰っていった。
「なんだったんだ、アイツめ……ドキンちゃん大丈夫?」
「うん。パンもらっちゃった!」
「なんでくれたんだ?」
不思議がるばいきんまんに「アンタが良いことしたからじゃない?」と言うと、「ハヒ!?」と焦ったあと照れていた。
「み、見てたの…?」
「たまにはやるわね、アンタも。でも、なんであの子の練習に付き合ってあげたの?」
「あぁそれは…、あの子が餡パン嫌いだったからなのだ。
でもそれだけに、アンパンマンに丸投げ出来なくて困った」
それでもアンパンマンはずっと見守っていたんだ…と思うと、不覚にもアタシは胸が一杯になった。
「丸投げしようとしてんじゃないわよ、おバカ!
アタシはてっきり、アンタに恋人が出来たのかと思ったわ」
「そんな訳ないのだー!
俺様のこと好きになる女の子なんてそうそういない…し……はぁ」
「なに自分で言って落ち込んでんのよ!」
肩を落とすばいきんまんにアタシは笑った。
「アタシは、ばいきんまんのこと好きよ!」
単純なところも、変にお人好しなところも、「ま、またまたー…」とか言いながら本当は嬉しがってるところも。
アンタの良いところは、アタシが独り占め!
(完)
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