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星空のランデブー


太陽はすっかり沈み、月のない夜空が一面に広がる。


きらめく星たちの中を、ばいきんまんとドキンちゃんは、UFOを並べ飛んでいた。


「ここら辺でいいかな」


草原に差し掛かり、適当な場所でばいきんまんはUFOを降りた。ドキンちゃんもそれに続く。


「きれ〜い!遠くまで来た甲斐があったわね!」


さっそく草の上に寝転んだドキンちゃんが、満天の星空を見上げ嬉しそうな声を上げた。


(よかった)


ばいきんまんはこっそり微笑みながら、隣に腰を下ろす。

ひんやりとした、少しこそばゆい草が、膝の裏に触れた。




「ねぇ、ばいきんまん。あれは何の星座?」


ドキンちゃんが空の一点を指差す。

それを見て、ばいきんまんはコホン、と咳払いをすると自慢げに語りだす。


「あれはね、夏の大三角っていうのだ。
こと座のベガ、はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイルで出来ているんだよ〜」


「そうなんだ!」


「あっちがさそり座で、こっちがいて座。それから、へび座に、へびつかい座もあるよ!」


「すご〜い!よく知ってるわねぇ〜」


「ふふん…俺様は、宵っ張りだからね。だからいつも星を見てたのだ」


「ヨイッパリ?」


ドキンちゃんは首を傾げる。


「夜遅くまで起きてる人のことだよ」


「ふーん…じゃあ、ドキンちゃんもヨイッパリになろうかな!」


「…ふふ。ダメだよ」


「えっ?なんで!?」


ばいきんまんはニヤリとする。


「ヨイッパリは、お肌に悪いのだ〜」


「…やーめた!」


「なははは!」


ばいきんまんが笑う。
「なによー」と言いつつも、ドキンちゃんもなんだかおもしろくなって、一緒に笑った。





(眠る時にも、この星を眺めていられたらいいのに)


星空を眺めながら、ドキンちゃんは思った。

胸の中は星屑のロマンチックでいっぱい。

このまま、快適なベッドで眠れたらどんなに気持ちいいだろう。


バイキン島はいつも分厚い雷雲に包まれていて、太陽ですら滅多に見られない…。


(…あれ?)




「ねぇ、ばいきんまん」


「なに?ドキンちゃん」


「バイキン城からじゃ星は見えないわよね。どこか別の所で見たの?」


「…うん。いろんな所に移動して見てたよ」


「えっ、そうなの!?
どうしてアタシを誘わないのよ〜!」


「どうしてって……
その時は、ひとりだったから」







実は、ドキンちゃんがこの星にやって来る前のこと。


いい発明も思い浮かばず、なかなか眠れない夜には、ばいきんまんはよくUFOを乗り回していた。

あてもなくブラブラして、そのうち適当な所で降りる。

地面に寝転べば、そこには自分だけの星空…。









「時間なんか気にせず、ずうっと見てる時もあったなぁ。
今と違って、誰かさんのご飯を心配しなくていいからね」


「なによっ!」


ドキンちゃんは、ばいきんまんをジロリと睨む。


「ひとりで星ばっか見てたって、ずいぶん寂しい毎日だったのね〜」


「……」






“寂しい”



ドキンちゃんが、何の気なしに発した言葉。

それは不思議と、ばいきんまんの心に響いた。







「……うん、きっと、そうだろうね」


「…?」



「きっと、俺様、寂しかったんだなぁ…」







一人でこの星にやってきて、

一人でバイキン城に住み着いて、

一人でアンパンマンと戦って、


きっと、ばいきんまんは寂しかった。


きっと、なんにも辛くない振りをして、

本人すら気づかないくらい、心の奥に隠してきた感情。



ふいに切なげになるその横顔に、ドキンちゃんは手を握りしめた。




「……大丈夫よ。アタシがいるから」


「え?」


「これからは、アタシと一緒に星を見ればいいじゃない。ねっ?」



ドキンちゃんの言葉に、ばいきんまんは一気に体が熱くなるのを感じた。

何か言わなきゃ、と思ったがうまく言葉が出なかった。



「あ、あの……」


「その代わり、アタシのお願いはちゃーんと聞いてちょうだいね!」


「……」



満足そうなドキンちゃんの笑顔が弾ける。

ばいきんまんは、言いたいことを遮られた気まずさを抱えていたが、
目の前で笑っている彼女の頬がだんだんと赤く染まっていくのを見て、静かに笑みをこぼした。


強気の照れ隠しは、彼女の常套手段だから。




(ありがとう、ドキンちゃん)




月のない夜空の下、綺麗な星と涼しい風が二人をいつまでも包んでいた。



(完)

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あきゅろす。
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