姫と執事の話 3 クスクス、クスクス……。 すれ違う度に聞こえてくる微かな笑い声。 気になって振り返るが、その度、慌てた様に視線をそらされる。 いつの間にか、歩調も荒いものへと変わっていった。 (いったいなんなんだ!?) それから少し歩いたところで、 「サンジェス」 と後ろから声をかけられ、不機嫌な表情を隠すことなく振り返る。 自分と同じ王女付きの、メイドアリアが、口元に手を当て肩を震わせていた。 「サンジェス。アナタ、そんなシュミがあったの?」 「なんのことだ」 「コレよ。コレ」 ちょっと失礼、と左耳に手を伸ばされる。 そして、耳に触れることなく手が離れ、そこには…… 「なんだ。それは」 一輪の花が握られていた。 「あら。今ごろ誤魔化そうたって、もう遅いわよ。――それにしても、アナタにこんな可愛らしいシュミがあったなんてねぇ」 アリアは時おり花の香りをかぎながら、指でクルクルと回している。 その様子を見ていると、先ほど自分の昼寝を覗き込んでいた顔を思い出した。 アリアから花を奪い取る。 「きゃっ」 「…………」 暫く花を眺めていたが、やがてふっと息をついて肩をすくめ、自室に戻るために再び歩き出した。 時おり、花に目をとめながら……。 「まったく何なのよ。怒っているかと思えば……」 後ろから聞けてきたそんな呟きも、サンジェスには届いていなかった。 なんと他愛のないイタズラだろうか。 しかりつけるには、この花は少し、綺麗すぎた。 その後リーシャが、サンジェスの使っているしおりが一つ増えていたことを知るのは、もう少し、先のこと……。 《END》 [*前へ] [戻る] |