姫と執事の話 花の試練 春の暖かな日差しのなか。 王女リーシャは、執事のサンジェスとメイドのアリア。 それから二名の護衛を連れて、国の外れにある草原に来ていた。 草原の中心には、いつ頃植えられたのか、大木が一本、枝を広げていた。 風に吹かれるたび、薄桃色の花びらが舞う。 「わー! きれいだなぁ。これを愛でながら食事をするのだ。楽しいに決まっているな」 リーシャは舞うように、大木の周りをクルクルとまわりだした。 アリアに聞いてから、やりたくてウズウズしていた“花見”が、やっと出来るのだ。 喜びを抑えることは不可能に近かった。 サンジェスが、転んでしまいますよ、と口を開こうとした瞬間、顔面から倒れ込んだ。 「姫!?」 慌てて駆け寄ると、クツクツと肩を震わせている。 「姫……?」 と声をかけると、天使の歌声だと評されるそれが、高らかな笑い声をあげた。 何がそんなに面白いのか、足をバタバタとさせている。 今日は走り回るだろうからと、少年風な装いにさせておいて正解だった、とサンジェスが密かにため息をついていると、敷物とカゴを持ったアリアが、クスクスと笑いながら近づいてきた。 「さぁ姫。さっそくですが、お食事にいたしましょうか」 弁当を広げると、リーシャはさっそく、自ら作ったそれをサンジェスに差し出す。 「サンジェス。これを食べてみてくれ。アリアに教わってわたしが作ったのだ」 アリアに教わった、というところに若干の不安を覚えながらも、赤い果実のジャムが入ったサンドウィッチを口にはこぶ。 「!?」 舌が一瞬で、砂糖になったような気がした。 「どうだ? うまいか?」 「……あ、りがとう……ござい、ます」 [次へ#] [戻る] |