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姫と執事の話
3
 それから数ヶ月後。

 婚約者とともに城に来ていたセリカと会ったアリアは、二人で庭を散歩していた。


「リーシャ姫様のおそばを離れても大丈夫なの?」


 セリカが心配そうに首を傾げるとアリアは


「だいじょーぶ」


 と答えならがら両手を頭の後ろに組み、足を前に投げ出すように歩きはじめた。


「姫、今は勉強の時間だから」


 基本的には姫のそばに居て、話し相手やら遊び相手になっているのだが、教師が来て勉強をするときだけは、休憩もかねてある程度は自由に行動することが許されている。

 立ち止まり、大きく伸びをする。

 が、そのはき出す息はため息となっていた。


「どうしたの? ため息なんかついて」

「ねぇ、セリカはどういう風に聞いてる? 姫のこと」

「どういう風に? おてんばとか、とっても明るい方だとかってこと?」

「だよね〜……。わたしもお父様からそう聞いてた」

「違うの?」

「ぜんぜんちがう」


 うつむいて、足元の草をけとばした。


「話し相手っていってもわたしばっかりが話してる感じだし、何に誘っても首を横にふって遊んだことないし……」

「アリア……」

「さいしょの頃はこんなもんか、って思ってたんだけど……こうも続くとさすがにちょっと落ち込む。……もしかしてわたし、姫には好かれてないのかなぁ……」

「そんなこと――」


 と、背中に衝撃を受けてまえのめりに倒れてしまった。


(え……これってどういうこと?)


 考えごとをしていたために頭が追い付かない。

 ひざまづいた状態のままで後ろを向くと、


「姫!?」


 そこにはしりもちをついたらしく、草の上におしりをつけたまま、いたたた、と腰のあたりをさすっている姫がいた。

 アリアの顔を見たとたん、目を大きく見開いた。

 が、次の瞬間ハッとしたように立ち上がる。

 スカートに付いた草をかんたんに払い落として、走り出そうとしたところで、


「見つけましたよリーシャ姫!」


 後ろからやってきた少年がその手をつかんだ。


「さあ、部屋に戻りますよ」

「いやだ」

「リーシャ姫」

「いやなものはいやだ」

「……わかりました。それじゃあ、先生にお願いして、時間を少し短くしてもらいましょう。それで、終わったらもう一回外に出て鬼ごっこでもしましょうか」

「あそんでくれるのか?」

「リーシャ姫がちゃんと勉強するなら」

「する! よし、そうと決まればさっさと戻ってさっさと終わらせるぞ」


 姫は瞳をキラキラと輝かせて城に戻っていった。

 その一連の様子をペタリと座り込んだまま眺めていると、隣に立っていたセリカがクスリと笑みをこぼした。


「あいかわらず大変そうですね。リオン様」

「セリカ。気付かなかった。ゴメン」

「いいえ」

「――と、お前は何をしているんだアリア」


 セリカの婚約者であるリオンに手を差し出され、ようやっと立ち上がる。


「……なんかタイミングを逃してしまって……。ところでリオンさま」

「何だ?」

「姫って、いつもあんな感じなんですか?」

「まあそうだな。とくに、オレが鬼ごっことかかけっことかを教えてからは急激に足が速くなったし」

「つまり、リーシャ姫様の脱走ぐせは、リオン様のせいなんですね」


 セリカがにっこりと言うと、リオンは慌てたように首を横にふる。


「それは違う! むしろよく脱走するリーシャ姫を捕まえろ、っていうのでオレはここに来たわけだし。あ、でも……さいしょはそんなんでもなかったんだよなー」


 思い出すように空を見上げた。


「はじめの頃は大人し過ぎるくらい大人しかったんだけどさ。一回、オレも先生もついうとうとしちゃったときがあってさ。ハッと気付いたらリーシャ姫がいなくなってたんだよ――」

「それでどうしたんですか?」


 アリアは身をのりだすようにリオンに近付いた。

 リオンは驚いたように半歩さがる。


「とりあえず、で窓を開けて見たら庭にリーシャ姫がいたから、慌てて外に出て捕まえて、“鬼ごっこだったら勉強のあとで何べんでも付き合いますから”って言ったら、“それは何だ?”って訊かれて、教えてるうちに……こうなった」


 アリアは、そうですか、とうつむいた。

 リオンはさらに続ける。


「そういえば、アリアはリーシャ姫につかえているんだっけ」

「今はまだ“遊び相手”ってくらいですけど……」


 言いながら、部屋での姫のことを思い出した。


(そういえば、姫はいつも足をやたらとブラブラさせていたな)


 アリアは一度息をつくと、リオンに改めて向き直った。


「リオンさま、お願いがあるんですけど――」






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あきゅろす。
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