姫と執事の話
プリンセスと仲良くなる方法
「いいかアリア。くれぐれも無礼のないようにするんだぞ」
「はい。お父様」
王の間に向かいながら父の言葉に頷き、視線だけで周りを見る。
城に入ってからここまで、所々に花が飾られていたのだが、そのいくつかは萎(しお)れていたように見えた。
今日から暮らしていくのだから、慣れてきた頃にでも、お世話をさせてくれないか頼んでみようと思った。
花の世話をするのは、母の一番好きなことである。
だからアリアもよく、子ども用の小さなバケツを持って、手伝っていたのだ。
そのときの母の、ありがとう、という笑顔を思い出し、目の前がぼやけた。
「アリア、どうかしたのか――!?」
わずか数歩離れていただけの距離を走ってきた父は、アリアと視線を同じにして、そっと肩に触れてくる。
「大丈夫、といいのも少し変だが、私も時間があったらお前に会いに行くし、母様もパーティーがあるときは早めに来て、ドレスを選んでくれると言っていたから」
そうしてもう一度、ふう、と息をととのえ、俯(うつむ)けていた顔を上げた娘(アリア)と目を合わせる。
「それでも……お前がどうしても嫌だというなら、陛下にもうしばらく先にしてもらえるようにお願いしてみるが」
と言ってくれた言葉に、ふるふると首を横に振った。
「大丈夫です。お父様やお母様に、そこまで気をつかって頂かなくても……今のはちょっと思い出してしまっただけです。ここにはセリカもいるし」
「セリカ? ……ああ。この前のパーティーで知り合った子だね」
「はい。すっごく仲良くなりました」
にっこりと笑みを浮かべると、父は安心したように微笑んだ。
「それに……」
「それに?」
「それに……姫はずっとお一人で過ごしているのでしょう? だからわたし、はやく仲良くなりたいんです」
「そうか。それは良かった」
父は安心したように笑みをふかくした。
[次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!