姫と執事の話
4
それからひと月あまり。
リーシャは、部屋からほとんど出てこなかった。
しかも、サンジェスとはいっさい口をきかず、どうしても用事を頼まなくてはいけないときは、アリアや他の使用人に頼むなどして、それは徹底としたものだった。
とはいっても、極力話をしないようにしているのはアリア以外は皆同じだったので、サンジェス自身がとくに注目を受けることはなかった。
ただ、ここ二、三日、サンジェスは妙にイラついていた。
いつも騒がしいほどにまとわりついてくるリーシャのジャマが無いというのに、仕事のすすむ量が全く変わらない。
それこそ、今のこの状況でもなかったら誰も自分に近付かないだろう、と思われるほどにそれは態度に出ていた。
リーシャを除いて、機嫌の悪いサンジェスに話し掛けられるのはただ一人。
「ちょっと頼みたいことがあるんだけど、いい?」
腕を組み、椅子に座っているサンジェスを見下ろす。
それはとても、“頼みごと”をしている態度ではない。
「聞いてくれるわよね? 姫のことなんだから」
気付かなかったフリをしようと動かしていた手を止めた。
「今の姫の食事。朝食だけなの」
「朝食……だけ?」
「それだって、食べない日があるくらいよ」
肩を落として、視線を外す。
「だから、アナタから言って欲しいのよ。きちんと食べるように、って」
「……今のあの方が俺の言うことを聞いてくれるとでも?」
「少なくともわたしよりは……悔しいけど……何だかんだで結局、姫が一番いうことをきくのはアナタだわ」
アリアにジッと視線を向けられたが、かまわず仕事にもどる。
「そう……だったら」
ソファがきしむ音に振り返る。
「アナタが姫の所に行くまで、用事が無い限りはココに居させてもらうわ」
片頬をピクリてけいれんさせて眉をひそめるも、アリアはかまわず、持参していたらしい本を読み始めた。
どうやら、初めからこうするつもりだったらしい……。
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