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姫と執事の話
6
 アリアが迎えに来たのは、それから間もなくのこと。


「あらあら。姫、眠っておられるのね」

「ああ。起こすか?」

「大丈夫よ。月はまだ高くないから」

「そうか」

「わるかったわね。メンドーを押し付けて」

「どうってことはない。とくに今日は妙に静かだったしな」

「……へぇ」


 揺らさないようにとかごを抱えたアリアは、チラとサンジェスの後ろ姿に目を向けた。


「どーせ、アナタが、静かにしていないと部屋から追い出しますよ、みたいなこと言ったんでしょ」


 するとサンジェスは、しばし仕事の手を止めて


「……そうかもな」


 とつぶいた。


「なんかハッキリしないわねー」

「俺に、姫の考えてることなんて一生分からない、ってことだ」

「本気で言ってるの?」

「ああ」


 アリアの問いに、少しの間もなく肯定(こうてい)を示(しめ)した。

 反論しようと口を開きかけたが、仕事の体勢に戻ったその背中は、何を言ったとしても聞こえなかったフリをされるのが容易に想像できる。

 サンジェスに向けて宙をひと蹴りすることでそれをガマンして、仕方なく部屋を出た。



 その後、元の大きさに戻ってから目を覚ましたリーシャは、アリアに向かって開口一番


「アリア……すまないが、しばらくはここで食事をとりたい。お父様たちに伝えてくれないか」


 と告げた。

 アリアはそのとき初めて、リーシャね目が微かに赤くなっていることに気がついたのだった――。




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