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姫と執事の話
3
 それは、アリアとレイがリーシャの部屋の数メートル先まで近づいたときであった。

 扉の隙間からほんの少し煙が出てきたのを見つけたレイが、何事かと眉をひそめたとき


「えーっ!?」


 という声が聞こえてきたのである。

 慌てて走りだし、扉を開ける。


「姫ぎみ! どうなさったんですか!?」

「レ――! レイ……」


 振り返ったジルカは、一瞬、助かった、とばかりに笑みを浮かべたが、すぐにそれをひきつったものに変えた。


「姫ぎみ?」

「あ……いや、何でもないんだけど、何でもないわけじゃなくて……えーっと……」

「その後ろにくんだ手に何を持っているんですか?」

「べつになにも」


 扉の前に立ったままのレイが声を荒げようとしたとき、遅れて来たアリアが部屋を見てジルカに訊ねる。


「あら? ジルカ姫さま、リーシャ姫はどこにいらっしゃるんですか?」

「えっ!? リーシャ? リーシャは……その……」


 しどろもどろになりながらジルカは視線をそらす。

 と、


「アリアー。ここだー」


 遠くから叫んでいるかのような声でリーシャが応えた。

 ジルカは慌てて二人に背を向ける。


「リーシャ! せっかく隠してたのに意味ないじゃん!」

「そうは言うが、ジルカは解き方が分からないのだろう。だったら誰かに訊くしかあるまい」

「そーだけど……――」

「姫ぎみ」

「ハイ!!」

「そのまま、私の方を向いて下さい。いいですね」

「……はい」


 恐る恐る、といった様子で振り返ったジルカの手には……小さな仔猫ほどの大きさになったリーシャがいた。



「えーっとつまり、ジルカ姫さまがお持ちなった仔猫になるための薬、をリーシャ姫さまが飲んだら、なぜかお体だけが小さくなった、と」


 ジルカとリーシャがそろって、コクン、と頷く。


「しかも、元に戻す方法が分からなくて、その上誰にも言わずにやったからパニックになってしまった、と。そういう事ですね」


 二人の話を聞きおえたアリアの確認するような問いかけに、


「まぁ、そうなるな」


 と一言、机に置かれた枕に横たわったリーシャが答える。


「姫ぎみ」


 リーシャの体に手をかざしていたレイが、キッ、とジルカわ睨み付けると、


「まってくれ、レイ」


 と声を強めた。

 レイは、申し訳ありません、と顔を戻す。


「魔法薬というものは、どんな優れた者であろうとも、“人に試す場合には一つ余分に作っておく”ということはジルカに聞いた」

「そうです。今回のように失敗してしまったときに、同じ方法で作られたその一つを調べて、解毒の薬を作るんです。そうでないと解くまでに時間がかかるし、下手をすればその間に取り返しがつかないことにもなるんですよ」

「……」

「それを分かっていながらどうして!?」

「……」

「しかも、魔法薬などいつの間に」

「授業で使ったやつの余りで作った。作り方は図書室の本で」


 今にも泣き出しそうなジルカを見て、レイは怒鳴り声を押さえ込むようにこめかみをぐっと抑えた。

 すると、


「ジルカを叱らないでくれ。レイ」


 と、ジッ、と下からリーシャに見上げられた。


「わたしが強引に頼んだのだ。危ないということもきちんと聞いた。どうやって作ったのか聞いたとき、本当に完成するまでに時間がかかると思った。でもそれじゃあ、間に合わないんだ」

「間に合わない?」


 おうむ返しのレイに、リーシャは一旦口をつぐんみ、目を閉じて息を整えた。


「仔猫になってやりたいことがあったんだ。でもそれはいつでも良いわけじゃない。今でないと……。だから無理やり頼み込んだんだ。ジルカは悪くない」


 ジルカが顔を向けると、小さく笑みを浮かべた。





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