姫と執事の話
最上級のほれ薬?
静かな午後のひととき。
サンジェスは一人、自室で本を読んでいた。
今日はとくに立て込んだ仕事もないので、ゆっくり出来そうだな、と思っていたのだか、
「サンジェスー!」
勢い良く開けられた扉と、それに負けないような大きな声に、安らぎの時間は終わりを告げた。
「……なんですか。姫」
不機嫌さを隠すことなく、本にしおりを挟みパタンと閉じると、王女リーシャは、すまない、と姿勢を正した。
「それで、何の御用ですか?」
「あ、ああ。これを食べてくれ。私が作ったのだ」
リーシャは最近、料理にはまっている。
王女付きのメイド、アリアに教わっては、それを毎回同じ王女付きで、執事のサンジェスのところに持ってくるのだ。
ようするに毒味。
すくなくともサンジェスはそう思っている。
(まぁ、最近は大分ましにはなってきてるけどな)
ありがとうございます、と礼を述べながら、リーシャの持ってきた箱の中身の一つを口に入れる。
ほんの少し苦味のある甘さと、トロリとした食感の別の甘味が口の中に広がった。
今までで一番美味しいかもしれないな、と思っていると、リーシャがジッと自分を見つめていることに気が付いた。
「…………」
「どうだ? なにか変わったか?」
「なにも」
「ほんとか!? 体が熱くなるとか! わたしを見てたまらなくなるとか!」
まるでなにかショックでも受けたように詰め寄ってくるリーシャに、
「何を言ってるんですか……?」
と尋ねると、いったんサンジェスのもとを離れ、むむぅ、と考え込んでしまった。
「おかしいな……。たしかにアリアが、これは最上級のほれ薬だ。と言っていたのだが……」
「最上級の惚れ薬? アリアがですか?」
「ああ。お前の心を手に入れるにはどうしたら良いかと相談したら――ってあれ? サンジェス?」
部屋には、リーシャ一人だけが残されていた。
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