姫と執事の話
2
翌日。
ソファに座り、落ち着きなく辺りをキョロキョロとしている客人に、リーシャ王女付きのメイドアリアは、小さく笑みを浮かべながらお茶を出した。
「もう少しおちついたらどうなの?」
「しかし……」
「あなたは、第三皇子さまが参加される研究交流会に“勝手に”ついてきたジルカ姫さまの付き添い、なのでしょう? レイ」
「まぁ……たしかに」
「だったらあなたは“ただのお客さま”なんだから、もっと肩の力を抜いても良いと思うわ」
そう言ってアリアはレイの隣に座り、くつろいだ格好でお茶を飲み始める。
それを見たレイはほんの少しだけ肩の力を抜き、お茶に口をつけた。
ウィンドベル王国と古くから交友関係にあるジラフ公国。
そこの第七皇女であるジルカは、幼い頃よりリーシャと大の仲良しであった。
今回も、兄である第三皇子が、ウィンドベル、ジラフ、両国で行われる研究交流会に参加するついでにこの国王城に訪れると聞き、付き人である女執事のレイをなかば強引に引き連れて、兄たち学生の一団に同行していたのである。
「第三皇子さま、相変わらずジルカ姫さまに甘いわねー」
「まったくです。しかも、近くに来たとたん姫ぎみは勝手に飛んで行かれるし……。ここはジラフではないのだから魔法の制御も難しいというのに……」
「ジラフ公国は魔法を使える人間が産まれやすい空気に満ちている、という話よね。まぁ、はっきりと解明出来ていないからこその交流会なわけだけど」
「そんな大事なものに特に理由もなく着いてくるなんて……!」
「まあまあ。なにかあったとしたら、ここでのんびりお茶なんて飲んでいられないんだから、大丈夫。心配ないわよ」
「そうでしょうか……」
アリアは小さくため息をついた。
「仕方ないわね……。迎えに行きましょうか。たぶん姫のお部屋にいるんだろうし。あ、でも……お茶を飲みおわってからね」
「――わかりました」
しぶしぶといった様子でうなずき、お茶を一気に飲み干したレイとは対照的に、のんびりと一口ずつゆっくりと飲むアリアであった。
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