姫と執事の話
ひとつ・前編
「サンジェスー!」
「何ですか?」
「今日はクッキーを作ってみたのだ。食べてみてくれ」
「……まさか、またアリアに教わって、ですか?」
「そうだが……どうかしたのか?」
「いえ……」
「ここ最近ずっと思っていたのだが、もしかしてお前……わたしの作ったものを食べたくないのか?」
「そういうわけでは……ないのですが……」
「ねぇねぇ。リーシャ姫さま、また“アリアに教えてもらって作ったおかし”をサンジェスさまにさしあげたんですって」
「あぁ。それなら見ていたわ。サンジェスさま、大変よねぇ〜」
「うんうん! 甘いものが大の苦手なのに。姫さまのお作りになるものって、全部甘甘ですものねぇ〜」
「ほんと。そういえば、この間サンジェスさまがアリアに言っているのを聞いたんだけどね」
「なんて?」
「“あんなものは二度と口にしたくない!”って」
「うそぉ〜」
「ほんとよ」
「でもサンジェスさま、ちゃーんと食べてくださるのよねぇ」
「そりゃあー……あの方、お優しいんですもの。姫さまを傷つけるようなことはしないわよ」
メイドたちがクスクスと笑いあう台所の外で、王女リーシャは、胸にかかえたエプロンを、ぎゅっ、と抱き締め、自室へとかけ戻った……。
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