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姫と執事の話
2
「姫。そろそろおやつのお時間ですよ」


 声をかけながらドアを何度かノックするが、何の反応もない。

 もしかして、すれ違ってしまったのだろうか。


(イヤ、ちょっとまてよ)


 リーシャが、部屋に居るにも関わらず返事を返さないのは……


(眠っているとき)


 いつかの花見から帰ってきたとき、夕食時になっても姿をあらわさないので心配になって部屋に行くと、出かけたときの装いのままベッドで寝ていたのを思い出す。

 もしかして、と思い、


「姫、入りますよ」


 少し大きめに声を出しながら中に入った。


「姫、もうおやつの時間ですよ」


 室内を見回すと、昼間は開けられているはずのベッドのカーテンが閉まっていた。

 やはり、とカーテンをめくり中を覗き込むと、


「また眠って――!?」


 リーシャが眠っていた。

 ただし、サンジェスが想像していた様な格好ではなかった。

 リーシャは、下着姿のままで眠っていたのである。

 寝るつもりはなかったのだろう、足はサイドから投げ出されている。

 コロン、と寝返りをうつたび、暑いのか、んー、とも、うー、ともとれる声を出す。

 そして一番問題なのは、肩ヒモがだらしなくずれ落ちている、ということだ。


「……まったくっ。このままでは出てしまう――」

「……サンジェス〜」


 肩ヒモに手をかけようとした瞬間、名前を呼ばれて慌てて体を引く。

 寝言だと分かりほっと息を吐(つ)くが、ハタと気付き頭を振った。


「なにを動揺しているんだ。俺は。なにもヤマシイことなんかしてないじゃないかっ」


 暑さでどうかしているんだ、と。

 だから動揺してしまったのだ、と。

 半(なか)ば強引に言い聞かせた。

 リーシャは一度眠ると声をかけたくらいでは起きることがない。

 だが、“ヤマシイ”と声に出してしまったせいだろうか。

 肩に手をかけようとするたびに、ヨケイなコトが頭をよぎる。

 結局、リーシャを起こすことは出来なかった。




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あきゅろす。
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