版権作品
2
「お。やってる、やってる」
校内に入ってすぐに聞こえてきた金管楽器の音に、足は自然と音楽室へ向かう。
友人に誘われてなんとなく入部した吹奏楽部であったのだが、華澄が顧問として入ってきたのが分かったあの日、校門を出てすぐにその友人に抱き付いたものだと思い出し、歩きながら肩をゆらした。
音楽室にたどり着き、曲がひとだんらくついたところでドアをノックする。
中から、どうぞ、と声がかえってきてから、ドアを開ける。
「よっ」
かるく片手をあげながら中に入ると、演奏する部員たちの前で指揮棒をふっていたであろう少女が、目を大きく見開いた。
「浅葱部長!!」
「ん? 今はお前が部長なんじゃねーの? 高橋」
「いや、たしかにそーですけど……」
高橋が困ったように答えると、演奏していた何人かが立ち上がる。
一馬が三年のときに入学してきた、今の三年生のようだ。
「んなことより、先輩こそどーしたんすか? こんないきなり」
「ん、まぁ……ちょっとヒマになったもんだからさ」
「あ、でも。麻生先生今日は帰り、遅くなるんじゃないかと思うんですけど……」
「え。そうなの?」
「はい。それで今日の部活は先生なしなんですよ」
「そっかぁ……。アポなしはこういうとき困るな……」
「え、デートの約束してたからとかじゃないんすか?」
「今日は予定なし」
どうしようかと頭をかいていると、他の部員たちが微(かす)かに眉をひそめたようだった。
たぶん、“デート”という単語が気になったのだろう。
すると、三年生の伊藤が、自慢気な顔をした。
「聞いて驚け後輩どもよ。こちらにおわす浅葱一馬元部長は、我等が顧問、麻生華澄先生様の恋人であられられる!!」
一、二年生たちは示し合わせたかのように、いっせいに、えぇー!? と叫んだ。
「先生の恋人ってうちのOBだったんですか」
「それっていつからなんですか」
「っていうかぶっちゃけどこまですすんでるんですか」
それぞれに楽器をイスの上にそっと置き、一馬に詰め寄る。
それに気圧されながらも、発言した伊藤を睨み付ける。
「おまえな……」
「べつにいーじゃないすか。悪いことしてるわけでもあるまいに」
肩をすくめてこたえられ、内心でため息をついた。
やはり“華澄先生”の人気というものは、おとろえることをしらないらしい。
そんな女性が恋人だなんて、一馬自身、今だに信じきれていないところがあった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!