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版権作品
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「お。やってる、やってる」


 校内に入ってすぐに聞こえてきた金管楽器の音に、足は自然と音楽室へ向かう。

 友人に誘われてなんとなく入部した吹奏楽部であったのだが、華澄が顧問として入ってきたのが分かったあの日、校門を出てすぐにその友人に抱き付いたものだと思い出し、歩きながら肩をゆらした。

 音楽室にたどり着き、曲がひとだんらくついたところでドアをノックする。

 中から、どうぞ、と声がかえってきてから、ドアを開ける。


「よっ」


 かるく片手をあげながら中に入ると、演奏する部員たちの前で指揮棒をふっていたであろう少女が、目を大きく見開いた。


「浅葱部長!!」

「ん? 今はお前が部長なんじゃねーの? 高橋」

「いや、たしかにそーですけど……」


 高橋が困ったように答えると、演奏していた何人かが立ち上がる。

 一馬が三年のときに入学してきた、今の三年生のようだ。


「んなことより、先輩こそどーしたんすか? こんないきなり」

「ん、まぁ……ちょっとヒマになったもんだからさ」

「あ、でも。麻生先生今日は帰り、遅くなるんじゃないかと思うんですけど……」

「え。そうなの?」

「はい。それで今日の部活は先生なしなんですよ」

「そっかぁ……。アポなしはこういうとき困るな……」

「え、デートの約束してたからとかじゃないんすか?」

「今日は予定なし」


 どうしようかと頭をかいていると、他の部員たちが微(かす)かに眉をひそめたようだった。

 たぶん、“デート”という単語が気になったのだろう。

 すると、三年生の伊藤が、自慢気な顔をした。


「聞いて驚け後輩どもよ。こちらにおわす浅葱一馬元部長は、我等が顧問、麻生華澄先生様の恋人であられられる!!」


 一、二年生たちは示し合わせたかのように、いっせいに、えぇー!? と叫んだ。


「先生の恋人ってうちのOBだったんですか」

「それっていつからなんですか」

「っていうかぶっちゃけどこまですすんでるんですか」


 それぞれに楽器をイスの上にそっと置き、一馬に詰め寄る。

 それに気圧されながらも、発言した伊藤を睨み付ける。


「おまえな……」

「べつにいーじゃないすか。悪いことしてるわけでもあるまいに」


 肩をすくめてこたえられ、内心でため息をついた。

 やはり“華澄先生”の人気というものは、おとろえることをしらないらしい。

 そんな女性が恋人だなんて、一馬自身、今だに信じきれていないところがあった。






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あきゅろす。
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