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版権作品
ループ
 “究極に追い込まれた状況にすることにより、荒(すさ)んだ心を治す”

 そんなうたい文句と共に集められた子供達。

 適応試験(てきおうしけん)によって選ばれた彼等は、言い方をほんの少し変えただけで、“親に捨てられた子達”ということになる。

 理由は簡単だ。

 この、“カウンセリング”とは名ばかりの実験によって、彼等には、“適応係数(けいすう)が正常値に快復する”か、“心が完全に壊れる”か、しか残されていないのだから。

 勿論、“壊れた”子どもたちの世話は此方(こちら)で看ることになっている。



 わたしはこの“カウンセリングセンター”に来てからまだ三ヶ月程しか経っていないが、宿泊室のドアの隙間から、見たり聞こえたりする、“完全に壊れた”子供達に、喉の奥が酸っぱくなる。

 今日も、トイレ休憩から戻る時に、この世の終わりの様な子供達の声を聞き、口元を押さえて“第一カウンセリング室”に戻った。

 ドアを閉めて、ふーっ、と息を吐くと、パン、と硬い物で叩かれた。

 顔を上げると、其所(そこ)に居たのは、ファイルを手にした先輩だった。


「仕事中にはなるべく無表情で、って言ったはずよ」

「すみません……」

「ま、どうせ宿泊室からなんか見えたんでしょう」


 何も言えず黙りこんだわたしに、先輩は肩をすくめた。


「気持ちは分からないでもないけどさ、そんなんじゃ此処(ここ)じゃあやっていけないわよ」

「……はい」


 果たして、“慣れる”ということは本当に必要なのだろうか。

 そんな、意味のないことを考えならが、ファイルを手に取った。

 硝子(がらす)越(ご)しに見る子供達は、ただ、穏やかに眠っている。

 “見ているだけならば”、だけど。

 “カウンセリング方法”は簡単だ。

 詳しい内容までは、したっぱであるわたしは知らないが、薬によって眠らせた子供達に、“同じ夢”を見せる。

 そして、グループ全員が“終わる”までその“夢”を続ける。

 一番始めのグループは、“戦争の第一線に居る”というものだった。

 その子供達は、全員、精神崩壊となった。

 今のグループの“夢”は、“合宿が終わって帰って来ると、自分達以外の生物が居なくなっていた”というものだ。

 今の所運が良いのか、実験を終えた子供達は、全員が適応係数の快復を見せていた。

 残るはあと一人。

 黒須太一(くろすたいち)。

 彼が快復を見せれば、この“カウンセリング方”は、正式な物として発表されることになる。

 しかし、


「これだけ“夢”を繰り返す子も珍しいわね」

「そうなんですか?」

「ええ。普通だったらもうどちらかになって終わってるはずだもの」


 先輩が考えこんでいると、


「彼の適応係数は八十四。此処においての“普通”だって当てはまる訳がないのよ」


 と言いながら、通り過ぎた人が居た。


「所長!」


 驚いた先輩が慌てて姿勢を正した。

 わたしもそれに習う。

 所長はわたし達に軽く手を上げ、直ぐにパソコンに目を落とした。


「調子はどう?」

「依然、変化はありません」

「正常値と危険値を行ったり来たり、ってことね」

「はい」

「……仕方ないわね。――今やっている分の“夢”が終わったら今日の分は終わりにしてちょうだい。続きは明日にしましょう」


 わたし達“研究員”は、はい、と言って姿勢を正した。


 

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