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版権作品
夏休みの思い出
 河童(かっぱ)。

 蛙(かえる)みたいな身体に、アヒルみたいな口。

 それから背中に、亀みたいな甲羅(こうら)を背負っている妖怪。

 絵本でしか見たことのないそれは、確かに存在していた。

 だってこうして、子どもの頃の祖父と一緒に、写真に写っているんだから。


「おじーちゃんいいなぁー。わたしもカッパさんとおはなししたーい」


 夏休みになって遊びに行く度に、そう言って目をキラキラさせる妹に、あたしはため息を吐いた。


「ジョーダンじゃないわよっ。連日連夜カメラに追われる生活なんてまっぴらゴメン! もし見つけたのがあたしだったとしたらソッコーで保健所に通報するわね」

「えー! おねーちゃんヒドイ!!」


 ねぇおじーちゃん、と妹が振り返ると、


「そうだなぁ」

と祖父が頷いた。


「生き物を大切にしないと、罰が当たるぞ」

「そんなこと言うけど、おじいちゃんだってイヤだったでしょ? ろくたま遊ぶことも出来なくなってさ」

「いいや。テレビに映ることが出来て、とっても楽しかったぞ」


 それを聞いた妹が、やっぱりおねーちゃんのまけー、とケラケラと笑った。

 うー…。

 どーせあたしがわるーござんしたよーだっ。


「でもさ、結局この河童だって、ココがイヤになって逃げ出したじゃない」

「にげたんじゃなくて、かえしてあげたんだってば!」

「同じようなもんでしょ」

「ちがうもん!! ねぇーおじーちゃん、カッパさんはどこいっちゃったの?」

「さぁねぇ。それはおじいちゃんにも分からないんだよ」


 ほぉら。

 どうせ、逃げられたっていうのが嫌で言い方変えただけなんだから。

 ちょっと散歩に行ってくる、と言いながらサンダルに足を突っ込む。

 妹の、“カッパさんに会いたいコール”は、この蒸し暑い空気よりもうざったい。

 そんなことを思いながら、自転車を押して家を出た直後、妹と同じ年齢くらいの男の子とすれ違っった。

 男の子は背に、玩具のバットでも入っていそうな細長いカバンを背負っていた。

 その直後、家の玄関から、


「おい康一(こういち)! 遊びに来てやったぞ」


 と叫ぶ男の子の声がした。

 おいおい、目上の人に対してそれはないんじゃないの? と振り返ったとき、家の中から祖父が、


「おぉよく来たなぁ」


 と返してきた。

 ……やっぱりうちのおじいちゃんは、少し変わっていると思う。


(とりあえず、帰りにアイスでも買ってくか)


 そんなことを思って、自転車のサドルに跨った。





《END》

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