版権作品
3
「やっぱりここにいたっ。朝お姉ちゃん、ほうかご本屋さんでさんこうしょをさがすんだ、ってワクワクしてたもんっ」
駅前の書店に誠と言葉を見つけた二人は、着かず離れずな距離で観察していた。
参考書を一冊一冊、じっくりと見ている言葉とは対照的に、パラパラと、ただ眺めているだけの誠。
そんな二人の様子を見て、世界は微かにほっと息を吐いた。
「なんだ。これならまだわたしにも勝ち目あるじゃん」
「何にかつの?」
「――ううんっ! なんでもない」
心に顔を覗き込まれ、慌てて顔の前で両手を振る。
ふーん、と不満げな顔で返され、内心で謝りながらも、再び誠たちに視線を戻す。
すると、
(な、なにやってんのよ!? あのふたりぃー!?)
誠が言葉の肩を抱き寄せていた。
どうやら、言葉がチェックしている本を一緒に見ているらしい。
言葉の方は、赤くなりながらも拒絶する様子を見せず、二人して照れた様に笑い合っていた。
片頬をピクピクさせている世界の隣で、
「まことお兄ちゃんやるー」
と、心が目をキラキラとさせていた。
その後、会計を済ませた誠と言葉の後を更に追おうとして店を出たところで、世界の携帯電話が着信を知らせてきた。
ビクッと肩を震わせると、慌ててその相手を確認する。
チッ、と舌打ちしつ通話スイッチを入れる。
『あっ。せかいー?』
「なに!? いきなり電話なんかしてこないでよ!」
『いやーそれは分かってんだけどさー。店長が早く戻ってこいって。じゃないと時給減らされるみたいよ』
「!?」
それじゃあ伝えたからねー、と言って通話が切れると、世界は心なしか青ざめ、遠ざかりつつある前方の二人と携帯電話とを何度か見比べ、
「ええーい! 心ちゃん、後任せても良い? お母さんにはわたしから言っておくから」
「まかせてっ」
全速力で走って行った世界を見送り、
「よーしっ!」
と拳を握り締めた心が振り返ったとき、
「……あれ?」
誠と言葉の姿は、見えなくなっていた。
それから暫くして、二人の姿を探しまくり、半泣き状態の心がラディッシュに帰って来て、結局世界は時給を減らされることになったのである。
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