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3
少女が自分の前を通り過ぎ、茶屋に向かって行ったのを確認すると、ケーゴは立ち上がり、男に近付く。
そして、素早く取り出した短剣をその背中に突き付けた。
「王女を返してもらおうか」
すると男はたいして驚いた様子もなく両手をあげると、のんびりとした口調で言葉をかえす。
「なんや、ほんまに王女サマやったんか。東の王家の紋章持っとるし、何かあるとは思っとったけどな」
「減らず口を」
「ほんまやって。せやから、東、東へと歩いとったんやで。いつでも返せるよぉにて。――でも、気ぃ変わったわ。すぐには返さん」
「あぁ!?」
「ルナもオレになついとるしな」
「ハッ――バカな」
「その証拠に、オレのコトバが移っとる」
それにアンタもさっき見とったんやろ? と言われ、何も言えなくなる。
ケーゴは微かに動揺して、手の力を緩めてしまった。
それに気付いた男は、ケーゴの手首を掴み振り返る。
「それにな――」
そして、
「――オレ、アンタのこと気に入ったんや」
とケーゴの唇をペロリと舐めた。
「安心しぃ。王女サマはちゃぁんと返したるから。せやけど……王都に着くまでに口説き落とすからカクゴしとってな」
「――!?」
耳元で囁(ささや)きかけられ、ピクリと反応を返したケーゴに、男はクスリと笑って身体を離した。
「ああ、そういえば忘れとったわ。オレはユーシ。アンタの名前は?」
「……お前のようなヤツに名乗る名前はない」
それから少しして、少女が包みを三つ持って戻って来た。
「ユーシ、見て見てぇ。お店のおっちゃんが一つまけてくれてん」
包みを片手で受け取りながら、ユーシは、凄いなぁ、と頭を撫(な)でた。
少女は気持ち良さそうに目を細めた。
「そぉいやな、ルナ」
「なんや?」
「天使さん、オレらと一緒に旅してくれんねんて」
「ほんま!?」
少女は目を輝かせながらケーゴの服の裾をギュッと握った。
ほんの少しだけ考えてしまったが、えぇ、とうなづく。
(この男と一緒っつーのは胸クソわりぃが、王女を守る為だ)
ケーゴは、自らに言い聞かせると、少女からちょっとだけ離れ片膝を立てて、こうべを垂れた。
「私(わたくし)の名はケーゴ。この先、あなた様をお守りいたします」
少女は一瞬きょとんと首を傾げたが、にっこりと微笑みかえした。
「うちはルナや。よろしゅーな、ケーゴ」
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