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姫君と騎士と旅人の話
東の国で、幼い姫君が何者かに拐(さら)われた。
護衛隊長であるケーゴは、国王により王女の探索を命じられた。
――定期の連絡は精霊を遣えば可能なんだ。だからケーゴ、妹を見つけるまで帰ろうと思うなよ。
と、そう言ったのは兄王子であるセーイチだ。
以来三年。
ケーゴは一度も城に戻っていない。
まあ、自分は王女の護衛隊長なのだから、あのまま城に居てもたいして仕事は無かったに違いないのだし、その辺はたいした問題ではなかった。
「……はぁ」
旅を始めて三年。
パンの値切り方まですっかり覚えてしまった。
このままでは旅人になってしまいそうだと、腰かけていた大きな石で、ケーゴはうなだれていた。
すると、
「おなか、へっとるん?」
頭上から幼い少女の声が響いてきた。
あとニ、三日で西の国とはいえ、ここはまだ北の国だ。
旅人だろうかと思ったが、今は相手にしている気分じゃない。
「ほっといてくれ――」
と顔を上げたとき、少女が身につけている大きめの首飾りが目に入った。
それに驚いたケーゴが腰を浮かしかけたとき、
「ルナー」
少し遠くから少女を呼ぶ声が聞こえて、
「ユーシー! こっちやでー」
少女は声の方へ駆けて行った。
少女の名を呼び近づいて来た男を、ケーゴは気付かれぬように観察した。
肩に微かにかかるほどの黒髪に丸眼鏡。
年は自分と同じくらいだろうか。
何を考えているのか分からないような笑みが気にくわない、と思った。
そんなことを考えながら二人を眺めていると、男がこちらに顔を向けたので、何気なさを装って視線をそらした。
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