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版権作品
3
「そーとー気に入ったみたいね。あの絵」


 帰りぎわ、呆れ顔で言ってきた少女に少年は、


「まぁな」


 と一言だけ返し、口をつぐんだ。

 それ以上は何も答えてくれないだろうと察した少女は、話題を変えるようにポンと手をうった。


「そういえばアタシさ、この間面白そうなゲーム見つけたんだよね」

「へぇ〜」

「だからさ、今からアイツ誘ってやらない?」

「どこで?」

「う〜ん……。広いとこならどこでも良いんじゃないかな」

「“かな”ってなんだよ。“かな”って」


 と苦笑したように言うと、しかたないでしょ、と少女は頬をふくらませた。


「大昔のやつなんだもん。良く分かんないんだから」

「はぁ? なんでそんなアブナッカシイことしなきゃなんねぇーんだよ」


 オレパスなー、と背を向けると、


「えーっ!? そりゃあ、二人でもキャッチボールは出来るかもしれないけどぉ……。アタシとしては、三人でやりたいんだよね……」


 少女はぶつぶつと呟きながら、つま先でのの字を書きはじめる。


「キャッチボールって……。お前、ホントにやり方分かってんのか?」


 かるくため息をつきながら振り返る。

「まぁ、だいたいは……。って、アンタ知ってんの!?」


 少女が驚いたように問い返すと、少年はしまったという表情で顔を背け、


「……まぁな」


 とだけ返した。

 少女は、ふーん、という顔をすると、


「ま、いいや。知ってるヤツがいるんだったら心強い」


 と胸を張った。

 少年が怪訝(けげん)そうな顔をすると、


「よしっ。じゃあアタシはアイツを呼んでくるから、アンタは場所を探しといて」

「はっ?」

「で、見つかったらメール入れといてね」

「いや、意味分かんないんだけど」

「いいから! 探したらそこで待ってなさいよ! ――走って行くから」


 そう言った少女の背後が、一瞬、“あの場所”に変わる。

 慌てて目を擦ると、そこにあるのはいつもの風景。

 少年は知らず入っていた肩の力を抜くと、ふっと微笑んだ。


「わーったよ。――待ってる」

「約束だからね」


 と言って駆け出した少女に、愛しい人の姿が重なった。



 神様を信じているわけじゃないけど、“魂”という存在は信じてみても良いかもしれない。

 自分が出会えたように、あの子も、過去の自分に出会えるように。

 ひとしきり願った後、三人でするキャッチボールが出来る広い場所、を探して少年は歩きだした。


「そういやアイツ。キャッチボールの道具なんて持ってんのか」


 その答えが出るのは、あと、一時間半後――。





《END》

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あきゅろす。
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