版権作品
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「――ったく、アンタが誘ってきたんだからね。今日の美術展」
「ワリィ。寝ぼけてたもんだからつい……」
うっかり。と言うとひじ鉄をくらった。
「おまっ……寝起きにそれは……」
という訴えは、先を行く少女には通じていないようだ。
国で唯一であるこの美術館では、数年に一度、世界に現存している美術品の全てを展示する展覧会が開かれる。
数年に一度のこの日だけが、美術館の開館日である。
だがそのわりに、館内には数えるほどしか人がいない。
「相変わらず人いねぇーなぁ」
「当たり前でしょ」
はぁ、と深くため息をつかれては、何も言えなくなる。
(まぁ、そりゃそうか)
そう思いながら辺りを見回す。
目当ての品はあるだろうか。
すると、クイクイと袖を引かれる。
「ほらっ。こっち、こっち」
「はっ? オレちょっと探し物が……」
「いいから来なさい」
いつの間に取って来たのだろう、パンフレットを手にした少女に腕を引かれて歩く。
まぁ、ただ探しまわるよりはましだろう。
(ちゃんと美術館も楽しめるしな)
「――っと、これよ。これ」
やっぱり一番最初は目玉からよねぇ、とパンフレットを広げながら、少女は興奮気味だ。
「えーっとなになに……。えっうそ。すごーい! この絵って、一番古いヤツなんだって」
「ああ……」
ねっ? と顔を向けてくる少女に、少年は上の空で返事を返す。
(真琴……お前、スゲーよ!)
その後も、他の場所を観に行きたい、という少女に、
「一人で行ってこいよ。オレまだここにいる」
「はぁ? ……マジで?」
「マジ」
まるで根付いてしまったかのようにそこから動こうとしない少年に、少女は二度目のため息をつき、
「じゃあ行くけど。絶対そこから動くんじゃないわよ。人いないとはいえ、探すのメンドーなんだから」
のんびりと歩きだしたが、少年は分かったと言うように軽く片手を上げただけだった。
他の美術品には悪いが、今日はこれの為だけに来たのだ。
他のものに興味はない。
少年はそのまま、一時間後に少女が戻って来るまで、その場でその絵を観続けていた。
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