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さがす明日
式日


風の匂いと土の匂い。
私は固い地面に倒れていた。
私は起き上がって、辺りを見たが、周囲は木の葉が生い茂り自分以外の人は見当たらなかった。

ここが何処なのか、何故自分はここに居るのか全く検討もつかなかった。
木の側でサワサワと揺れる葉の音を聞いているうちに、眠気から少しずつ覚醒していく。
そこでやっと、遭難してる、と思った。
ここは外で、山らしき場所。
スマホも無く手ぶらで、パーカーとズボンという装備で山道を下る、という試練。深く考えすぎたら生命の危機だと思い、思考を一旦止めた。

今は何時なんだろう。近場を調べて何か手掛かりを見つけるしかない。
そう思い、腰を上げたとき、自分の身長の異変に気付いた。小さい手足に未熟な体躯。

もう一度眠れば現実に戻ると思い、そのまま、寝直した。





「おい」


低い男の声がした。
驚いて飛び起きると、真っ暗だった。
わずかな月明かりが、周囲を頼りなく照らす。
風が冷たい。木の根や土が手に擦れて手が汚れたな、と頭の片隅で思った。

目の前で私を見下ろしていたのは、狐と猫の面を被った男の人だった。
見たことのない服と靴。

成人男性が二人揃って、お揃いの面を付けて仲良くお散歩か?
どこのイベントでなんの宗教なのだろう。
私は成す術もなく無言を貫き通すことにした。

「お前はどこの里の者だ」

「……」

「言葉が分からないのか?」

言い方が初対面できつい。里。ここは里なのか?
余所者を歓迎しない地方が、私が不法侵入してしまっている?
それにしてもなまりの強い方言でなく、流暢な日本語の標準語に安堵する。
言葉の意味を理解することができなかったが。
そして、自分の事さえも事情を説明できない。この状況の原因について、心当たりがまるでなかったのだ。

あちらもこちらを怪しんでいるようだった。
黙っている方とよく喋る方を見比べながら、自分の現状についてどう説明し助けを求めようか熟考する。
帰れればそれでいい。余計なことには関与したくない。
うーん。

思ったより小さな幼い声が、自分の口からこぼれた。

「迷って・・」

私は目の前の面を見つめた。
面なので、当然表情は分からなかった。

「・・しまって。でも、大丈夫です。さようなら」

私は見なかったことにして、一人で帰り道を探すことにした。
私は立ち上がって足の土ぼこりを適当に払い、気やすめに礼をする。

頭を下げて自分の膝小僧に手をついたところで、
彼らと私の間の地面に、鋭利な何かが突き刺さる音がした。
私はカラスか何かが餌を落としたのかと思った。

「起爆札?!」

爆発音。
途端に強い風圧と熱が凶器となり、頭を完全に上げる間もなく、私は爆風に吹き飛ばされて後頭部を強打した。
暗転。







白い天井。白い壁。白いベッドに私は横たわっていた。起き上がろうとすると、身体が痛かった。

「目が覚めましたか?」

看護師が言う。私は頷いた。
夢の中はなんでもありでいいな。
なんで病院にいるんだろう。

窓から見える景色には岩に顔の形が彫刻されていて、町風景はグレーのコンクリートやガラスが極力排除されたような和が強調された建物ばかりだった。昔っぽいけれどどこか独特な町並み。

私は身体が小さくなってることに気付き、さっきの出来事を思い出した。

「こんにちは、傷は痛みませんか?」

ぼーっとしていたら白衣を来た医者が隣に座っていた。そして、後ろに緑のベストを来た銀髪の鼻まで紺色防備のマスクをした人も居た。お前は医者じゃねーな。

「大丈夫です……」

「幸い軽傷ですが、頭も打ったので異変があればすぐにおっしゃってください。それと、幾つか質問していきますので答えられる範囲で、正直に話してね」

「はい」

カルテを持ったまま医者は話す。銀髪は壁に背を預けて腕を組んでいた。
看護師が安心させるように微笑む。

「お名前は?」

「アサヒ」

「歳は?」

「分からないです…」

「なんであの場所に居たのかな?」

「・・覚えてないです。」

予想していた質問に、考えていた言い回しを試す。まだ夢の可能性も捨てきれないし、夢じゃなければなおさら自分の情報は無為に晒す必要はない…。
人間嫌いの秘密主義と言われれば私はそれを体現したような人間だった。

それから更に質問を重ねられ、医者は話を続ける。そちらは集まった情報から診断結果は記憶障害という形でおさまったようだった。
ただ、私という人間の出処が不明らしく、私が何処へ住んでいて何処の人なのか、素性が調べても出てこないとのことだった。
困っている先方には悪いが、こちらも自分が世界的野良人間、という肩書きがつくくらいの核心と確信を無意識に得てしまっている。

名字を言わなかったのに指摘されない、凶器の種類、医療技術などの違和感。

シーツを握る手に力がこもる。背中にじっとりと汗をかいているようだった。廊下の音が聞こえる。五感は正常に働いている。血の気が引くの感じた。

話の内容には、『忍』という単語が出ていたことも含め、簡単にはどうにもならない案件だと失意の縁まで意識が追いやられる。


ここで私が得た情報を適当にまとめると、ここは日本でもなく、また日本という国が存在しないが、忍が職業として存在するバーチャルのような世界ということだった。

そして、私が始めから抱いていた『夢から覚める』という希望的考え方事態に穴があり、周囲からの援助は期待できず、むしろ私がこの世界に入り込んだ異端子らしい、ということだった。



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